金星は硫酸と二酸化炭素の大気、鉛も溶かしてしまう高温、地球の100倍の大気圧と、まさに地獄のような環境の星です。
しかし、そんな金星の大気中から生命の存在を示す痕跡が検出されました。
それはホスフィンと呼ばれる化学物質で、地球では通常微生物の発酵作用以外ではほとんど生成されません。
この研究は英国カーディフ大学宇宙物理学教授のジェーン・グリーブズ氏を筆頭とした国際研究チームにより、9月14に付けで科学雑誌『Nature Astronomy』に発表され世界中の注目を集めています。
目次
金星の雲から見つかった生命の痕跡
ホスフィンとはなんなのか?
金星の雲から見つかった生命の痕跡
金星大気中からホスフィンの最初の兆候が発見されたのは、2017年のことでした。
グリーブズ教授のチームはハワイ島マウナケア山頂にある電波望遠鏡「ジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡(略称: JCMT)」からその観測を行っています。
この発見については慎重を期すため、2019年にヨーロッパ南天天文台(略称: ESO)が運用するチリのアタカマ大型ミリ波/サブミリ波アレイ(略称: ALMA)でも追跡の観測が行われましたが、こちらでもホスフィンは検出され、金星大気に含まれることが確定されました。
英国、米国、日本の研究者を含む国際研究チームの分析によると、このホスフィンは、金星の上空50kmの辺りに20ppb(大気中に10億分の20の割合)というごく少量存在していると推定されています。
ホスフィンとはなんなのか?
ホスフィンはリン化水素(PH3)とも呼ばれるリンと水素の化合物です。無色で悪臭(魚の腐ったような臭い)があり、有毒な化学物質ですが地球大気中にもわずかながらに含まれています。
地球ではホスフィンは、嫌気性バクテリアが生成しています。鉱物や生物由来のリン酸塩をバクテリアが吸収して、水素を加えて排出するのです。
もちろん、ホスフィンは生物以外の要因で自然発生することもあります。木星のような巨大ガス惑星にも大気中に含まれますが、木星のような極端な環境でない場合、その生成量はごく僅かです。
今回の研究でも、ホスフィンが生成される量を、太陽光の影響、火山活動、地表から飛ばされる鉱物や稲妻など非生物的な要因で計算しましたが、それは観測された分量の1万分の1程度にしかなりませんでした。
観測されたホスフィンの量は、非生物的な要因では説明することができないのです。
つまり、観測された濃度(20ppb)の金星大気中のホスフィンの供給源は、地球と同様にバクテリアである可能性が非常に高いと考えられるのです。