多種共存を促進する進化

研究グループは、こうしたモテ形質の進化以外にも、多種共存を促進する「ムダの進化」を発見しました。

1つは「裏切り行動」と呼ばれる進化です。

例えば、アリの様な社会性の高い生物は、ワーカーと呼ばれる個体が、繁殖に専念する個体をサポートすることで集団全体の生産性を高めています。

しかし、個体数が増えていくと、ワーカーの中に社会に対する「裏切り行動」を取る個体が現れてきます。

この裏切りワーカーは、集団のために労働することをやめて、自ら繁殖行動を始めるのです。

これは自らの利益にはなりますが、集団の利益には貢献しないため、モテ形質と類似した進化ということができます。

また、イトトンボの見せるオスがメスに執拗に迫る「無理強い行動」、オサムシなどが後尾の際メスに外傷を与える行動、オスがメスをめぐって起こす闘争行為、さらにオスの出生率があがるなども、同様の効果があるムダの進化だと理論的に示されました。

競争に強い種がモテるために「ムダの進化」をすることで、自然界のバランスは保たれていた!?
(画像=Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

メスを惹きつけるための立派な羽根、特徴的な歌声、ダンス、立派な角、または社会への「裏切り行動」、こうした特性は、個人にとっては有利なので進化します。

けれど、これらの進化は生物種の存続や繁栄には貢献しない、集団にとってエネルギーの浪費となるムダな進化です。

人間に当てはめて見てもなんだか心当たるものがある気がしますが、しかし、こうしたムダな進化は、ムダであるからこそ、種間での競争を弱めるために働き、結果的に多様な種が共存できる状況を生み出しているのです。

人間社会の中にも、社会の利益にならない一見ムダで身勝手な活動をする人たちが大勢いますが、それも増え過ぎた人間を調整するための、自然の作用なのかもしれません。

この研究は、オーストラリアのクイーンズランド大学山道真人氏を筆頭著者として、東北大学、京都大学、東京大学など複数の大学、研究機関の研究者からなる共同研究グループから発表され、論文は生物学などを扱う科学雑誌『Trends in Ecology & Evolution』電子版に掲載される予定です。

reference: 東北大学/ written by KAIN

提供元・ナゾロジー

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