文人墨客にも親しまれた白骨温泉の老舗宿にて温泉逗留。悠久の歴史と自然美満ちる深山に湧く温泉は、時を忘れさせ、密やかに五感を刺激してくれる。

■乳白色の湯にとっぷり浸かり、信州の旬菜料理に舌鼓

ふんわりと真綿に包まれているような優しい肌触り。その滑らかな乳白色の湯に身を委ね、湯口から流れ落ちる湯音に耳を傾けていると、浮遊感と共にゆっくりと心がほぐれていくのを感じる。久しぶりの開放感を信州・白骨温泉の宿で味わっていた。野天風呂に滔々とかけ流される源泉そのままの湯。湯口では無色透明だが、空気に触れると白く濁って表情を変える。あぁ、この気持良さを何と例えようか……。

一足伸ばして名湯に浸かる。長野県の白骨温泉「湯元齊藤旅館」で“もてなしの心”に触れる
(画像=「鬼が城」と名付けられた清々しい野天風呂。2つあり、時間で男女入れ替え制となっている。『男の隠れ家デジタル』より引用)

旅の荷を解いて湯に浸っていたのは、乗鞍岳の東側山麓に湧く白骨温泉の老舗宿「湯元齋藤旅館」。長野県中部に位置する白骨温泉は、松本から上高地へ向かう途中の沢渡から県道を5kmほど走った場所にあり、深山幽谷の趣を漂わせる山間に10軒の温泉宿が点在する静かな温泉地だ。

なかでも湯元齋藤旅館は最も古く、創業は江戸中期の元文3年(1738)。当時、松本藩から、当旅館の祖先にあたる大野川村の庄屋に「白船御礼」が下され、本格的な湯屋を造ったのが始まりだという。

一足伸ばして名湯に浸かる。長野県の白骨温泉「湯元齊藤旅館」で“もてなしの心”に触れる
(画像=深山に抱かれ、湯屋から湯宿へと歴史を刻んできた白骨温泉の名旅館。『男の隠れ家デジタル』より引用)
一足伸ばして名湯に浸かる。長野県の白骨温泉「湯元齊藤旅館」で“もてなしの心”に触れる
(画像=格式を感じる玄関ホール。『男の隠れ家デジタル』より引用)
一足伸ばして名湯に浸かる。長野県の白骨温泉「湯元齊藤旅館」で“もてなしの心”に触れる
(画像=フロントにてチェックイン。『男の隠れ家デジタル』より引用)
一足伸ばして名湯に浸かる。長野県の白骨温泉「湯元齊藤旅館」で“もてなしの心”に触れる
(画像=ラウンジ「胡桃」で音楽や本を読んで過ごす。『男の隠れ家デジタル』より引用)

「温泉は鎌倉時代にはすでに発見されていたようで、北陸から鎌倉を目指す鎌倉往還が通っていたこの地では、往来する人が湯に浸かったと伝えられています」と話すのは専務の齋藤聡介さん。

戦国の世には、武田信玄が乗鞍岳の麓に銀山を開発。実際には鉄砲用の鉛が主鉱で精錬も行われたため、銀山の傷病者の療養に温泉が使われていたと伝わっている。

江戸時代に湯屋ができて以来、明治、大正、昭和と湯治場として栄えてきた白骨温泉。現在は〝白骨〟の名が知られているが、地元の古文書によると“白船”、“白舟”という地名の記述もある。

栃の木の大木を縛って丸木船仕様にして用いていたところ、内側に温泉の石灰成分が白く結晶。それを“シラフネ”と呼んだのが由来だという。実際、湯に浸かってみると、湯船の周りや湯口に石灰が分厚く付着しているのがわかる。

一足伸ばして名湯に浸かる。長野県の白骨温泉「湯元齊藤旅館」で“もてなしの心”に触れる
(画像=湯船の縁や湯口にがっちりと付着した石灰成分。薬用効果を物語っている。『男の隠れ家デジタル』より引用)
一足伸ばして名湯に浸かる。長野県の白骨温泉「湯元齊藤旅館」で“もてなしの心”に触れる
(画像=大浴場は「龍神の湯」と「薬師の湯」があり、いずれも内風呂と露天風呂が備えられている。深夜12時で男女入れ替え。全て源泉かけ流しで、泉質は35〜45度の炭酸水素塩温泉。湯口では無色透明だが空気にふれると乳白色に変化する。胃腸病、貧血症、神経痛などに効果的。『男の隠れ家デジタル』より引用)

「大浴場の内風呂はもともとヒノキで造ってあるんですが、石風呂のようになってしまいました」と齋藤さんは笑う。

白骨温泉は『三日入れば、三年風邪をひかない』といわれるほど薬用効果が高いとされるが、まずは目でそれを実感。さらに自家源泉の湯は飲泉ができ胃腸病の効能も望める。匂いも心地良く、まさに五感に響く名湯なのだ。

明治時代になると白骨温泉、白船温泉の両方の呼称が出てくるが、“白骨”の名が定着するのは、中里介山の長編小説『大菩薩峠』にその名が記されたことからだった。白骨を舞台に物語が展開する「他生の巻」は、大正14年(1925)8月2日、介山が湯元齋藤旅館に宿泊した際に着想したのだという。

一足伸ばして名湯に浸かる。長野県の白骨温泉「湯元齊藤旅館」で“もてなしの心”に触れる
(画像=4階建て「介山荘」棟のスタンダードタイプの客室。眺めが素晴らしい部屋が多い。『男の隠れ家デジタル』より引用)

今回、滞在した部屋は、その中里介山の名を冠した「介山荘」。他にも建てられた時代が由来の「明治館」、「昭和館」、そして湯治で通っていた若山牧水から命名した「牧水荘」などの建物が山の斜面に佇み、それぞれ趣を異にした快適な空間になっている。

介山荘にはスタンダード客室や半露天風呂付きの客室があり、後者には『大菩薩峠』の登場人物の名も付けられている。

一足伸ばして名湯に浸かる。長野県の白骨温泉「湯元齊藤旅館」で“もてなしの心”に触れる
(画像=ちょっと贅沢な「介山荘」の半露天風呂付き客室。『男の隠れ家デジタル』より引用)
一足伸ばして名湯に浸かる。長野県の白骨温泉「湯元齊藤旅館」で“もてなしの心”に触れる
(画像=部屋の風呂は温泉ではないが、誰にも邪魔されずゆっくり湯浴みが楽しめる。『男の隠れ家デジタル』より引用)

宿自慢の温泉は、開放感あふれる野天風呂の「鬼が城」、内風呂と露天風呂を備えた大浴場「龍神の湯」、「薬師の湯」がある。

乳白色の湯で温泉三昧を楽しんだ後は、客室やロビーラウンジなどでのんびり過ごす。松本民芸家具などを配したラウンジも趣深く、ここでは珈琲などを味わいながら音楽を聴いたり本を読んだりするのがよく似合う。

さて、山の端に日が沈み薄暮を迎えると夕食の時間だ。テーブルを彩るのは地元信州の食材を使ったその名も「しなの旬菜料理」。なかでも信州サーモン、信濃雪鱈、信州大王岩魚を盛ったお造りは特筆すべき逸品だ。珍しい川魚の食べ比べで、クセもなくさっぱりとした旨味が絶妙。

一足伸ばして名湯に浸かる。長野県の白骨温泉「湯元齊藤旅館」で“もてなしの心”に触れる
(画像=蓬豆腐、木の芽味噌田楽などを盛った前菜。『男の隠れ家デジタル』より引用)
一足伸ばして名湯に浸かる。長野県の白骨温泉「湯元齊藤旅館」で“もてなしの心”に触れる
(画像=信州サーモン、信濃雪鱈、信州大王岩魚のお造り。長野ではこれらの川魚を名物として生産に力を入れており、当宿ではそれら3種を食べ比べすることができる。さっぱりとした旨味が絶品。『男の隠れ家デジタル』より引用)
一足伸ばして名湯に浸かる。長野県の白骨温泉「湯元齊藤旅館」で“もてなしの心”に触れる
(画像=信州源泉蒸し。源泉を注いで岩魚などを蒸し上げる人気料理。他にも信州フランス鴨玄米揚げなど、料理長の百田孝太郎さんのアイデアとセンスが随所に光る。『男の隠れ家デジタル』より引用)
一足伸ばして名湯に浸かる。長野県の白骨温泉「湯元齊藤旅館」で“もてなしの心”に触れる
(画像=信州プレミアム牛しゃぶしゃぶ。『男の隠れ家デジタル』より引用)

さらに温泉で魚や野菜を蒸す信州源泉蒸し、信州プレミアム牛のしゃぶしゃぶなどまさに信州づくし! 箸をすすめるほどに地酒の杯もついつい重ねてしまう美味の数々が並ぶ。

いつしか夜の帳はすっかり下りてしまったが、至福の時間は夕食が終わって布団にもぐり込むまでまだ続いていきそうである。

一足伸ばして名湯に浸かる。長野県の白骨温泉「湯元齊藤旅館」で“もてなしの心”に触れる
(画像=朝食は温泉粥で目覚める。『男の隠れ家デジタル』より引用)
一足伸ばして名湯に浸かる。長野県の白骨温泉「湯元齊藤旅館」で“もてなしの心”に触れる
(画像=古くから湯治する人たちに提供してきた宿の名物。『男の隠れ家デジタル』より引用)
一足伸ばして名湯に浸かる。長野県の白骨温泉「湯元齊藤旅館」で“もてなしの心”に触れる
(画像=専務の齋藤聡介さん(右)を始め、笑顔のスタッフに見送られて宿を後にする。充実の時間でした!『男の隠れ家デジタル』より引用)
一足伸ばして名湯に浸かる。長野県の白骨温泉「湯元齊藤旅館」で“もてなしの心”に触れる
(画像=『男の隠れ家デジタル』より引用)

湯元齋藤旅館
長野県松本市安曇白骨温泉4195
TEL:0263-93-2311
チェックイン・アウト:15:00・10:00
宿泊料:1泊2食付き1万7050円〜 2名/1室(1名料金)
客室数:51室
泉質:炭酸水素塩温泉(硫化水素型)
アクセス:JR「松本駅」より直通バスで約2時間

編集部
いくつになっても、男は心に 隠れ家を持っている。
我々は、あらゆるテーマから、徹底的に「隠れ家」というストーリーを求めていきます。

文・編集部/提供元・男の隠れ家デジタル

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