ピョンピョン飛び跳ねる姿が愛らしいカエルですが、その中にジャンプのへたっぴな種がいます。

カボチャヒキガエル(pumpkin toadlet)です。

この小さなカエルはジャンプした後、空中で回転して、ほとんど必ず背中から地面に落下してしまいます。

これを不思議に思った米・南イリノイ大学エドワーズビル校(SIUE)の研究チームは、カボチャヒキガエルがうまく着地できない原因を調査。

すると、このカエルは「三半規管」が小さすぎて、回転による体勢の変化を感知できないことが示されました。

飛んだはいいものの、その後の自分の体勢がどうなっているかは全くわかっていないようです。

研究の詳細は、2022年6月15日付で科学雑誌『Science Advances』に掲載されています。

目次

  1. 内耳が小さすぎて「平衡感覚」が機能していなかった?

内耳が小さすぎて「平衡感覚」が機能していなかった?

カボチャヒキガエルは、ブラジルの熱帯雨林に生息するコガネガエル属(Brachycephalus)のグループです。

その名の通り、鮮やかなカボチャ色が特徴的で、体は親指の爪に収まるほど小さく、”世界最小級のカエル”と言われています。

そのため、野生下で見つけるのは非常に困難です。

基本的な捕獲方法は、カボチャヒキガエル特有の甲高い鳴き声を聞き分け、声のする辺りの落ち葉をかき集めて、その中を探します。

昨年には、カボチャヒキガエルの新種も記載されました。

さて、研究チームは今回、カボチャヒキガエルの不器用なジャンプの原因を探るべく、高速度カメラを使って、100匹以上の個体のジャンプを記録しました。

その結果、3分の1以上はジャンプ後に空中で回転して、仰向けのまま墜落していたのです。

映像を分析してみると、彼らは空中で自分の位置や体勢を把握するのが苦手であることがわかりました。

脊椎動物は普通、「内耳」を使って体のバランス感覚を維持します。

内耳は、聴覚に関わる「蝸牛(かぎゅう)」と平衡感覚をつかさどる「三半規管」や「前庭」から成り、その中をリンパ液という液体が流れています。

三半規管や前庭は、自分の体がどんな体勢にあり、どの方向に、どれくらいの速さで移動しているかなどを敏感に検出する器官です。

これを踏まえると、空中でバランスが保てないということは、内耳に何らかの問題があると考えられます。

そこでチームは、コガネガエル属を含む147種のカエルをCTスキャンし、内耳を調査。

すると、カボチャヒキガエルの内耳は、あらゆる脊椎動物(成熟個体)の中で最も小さいことが判明したのです。

カエルなのにジャンプが超下手! ガボチャヒキガエルの謎
(画像=コガネガエル属の内耳のCT画像 / Credit: RICHARD L. ESSNER.JR et al., Science Advances(2022),『ナゾロジー』より 引用)

これまでの研究によると、内耳の小さな動物は、リンパ液がスムーズに流れないなど、平衡感覚がうまく機能しないことが示されています。

このことから、カボチャヒキガエルも、内耳が小さすぎて、平衡感覚が正常に働いていないと考えられるのです。

その証拠に、他のカエルは空中でバランスを取る際に後ろ足を折りたたむのですが、カボチャヒキガエルは、足がピンと伸びたままになっています。

もはや「飛んだ後はわれ関せず」といった感じなのです。

では、まともに着地できないのなら、カボチャヒキガエルはどうやって移動しているのでしょう?

実は、彼らが普段の移動でジャンプを使うことは滅多にありません。

研究主任のリチャード・エスナーJr.(Richard Essner, Jr.)氏によると、カボチャヒキガエルは「ほとんどいつも、驚くほどゆっくり地面を這っている」のだそう。

ジャンプをするのは、天敵が迫ったここぞという時で、飛んでひっくり返った後は、30分もジッとして動かないことがあります。

こうなると、草木の散らばる林床の中ではもはや、どこにカボチャヒキガエルがいるか分かりません。

彼らは、運動能力がない代わりに、忍耐をもって危機をしのいでいるのです。


参考文献

Here’s why pumpkin toadlets are such clumsy jumpers

These Tiny Frogs Are So, So Bad at Jumping

元論文

Semicircular canal size constrains vestibular function in miniaturized frogs


提供元・ナゾロジー

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