イカ「ガマン、ガマン…」

イギリス・ケンブリッジ大学の最新研究により、イカに「自制心(self-control)」あることが判明しました。

自制心は高度な知性のなせる技であり、これまで霊長類やカラス、オウムなど、一部の脊椎動物にしか確認されていません。

無脊椎動物としては初であり、イカが知的な生命体であることを証明しています。

研究は、3月3日付けで『Proceedings of the Royal Society B』に掲載されました。

目次

  1. 50〜130秒のガマンに成功
  2. イカの自制心は「狩りのスタイル」から生まれた?

50〜130秒のガマンに成功

本研究は、イギリス・スタンフォード大学が1960年代後半から70年代前半にかけて行った「マシュマロテスト」に着想を得ています。

マシュマロテストは、未就学児を対象にした「自制心と認知機能」を調べる実験です。

子どもの前にマシュマロを1つ置き、15分間ガマンできれば、もう1つ追加してマシュマロを与えます。

研究チームは、これにヒントを得た実験を「ヨーロッパコウイカ(学名:Sepia officinalis)」を対象におこないました。

しかし、マシュマロをそのまま使うわけにいかないので、テストの前に個々のイカの好みを調べ、1番の好物とそれに次ぐ2番目の好物を割り出しています。

イカは「ジッと待つ」自制心をもつことが判明! 無脊椎動物で初めて確認
(画像=実験のイメージ図 / Credit: royalsocietypublishing、『ナゾロジー』より引用)

チームは、1番目の好物を「ガマンした後のご褒美」、2番目の好物を「すぐに手に入るエサ」として設定し、実験を開始。

2番目のエサを10秒間ガマンできたら、1番の好物が報酬として手に入ることを訓練で学習させます。ガマンできなければ、1番の好物は食べられません。

1回目をクリアできたら、遅延時間を10秒ずつ増やしていき、どこまで耐えられるかをテストしました。

その結果、イカは平均して50〜130秒までガマンできることが判明したのです。

これはイカが報酬の仕組みを理解し、自制心を働かせていることを示します。

では、なぜイカは他の海洋生物には見られない自制心をもっているのでしょうか。

イカの自制心は「狩りのスタイル」から生まれた?

研究主任のアレクサンドラ・シュネル氏は「この結果は、単に無脊椎動物という理由だけでなく、イカが孤立した短寿命の生き物という点で真に驚くべきこと」と指摘します。

霊長類やカラス、オウムが自制心を進化させた理由は、彼らがまさに長寿で、社会的な生き物であるからです。

複数の仲間と長く付き合っていく中では、争いを避けたり、絆を深めたりするために「自分を抑える」ことが必要になります。

ところがイカは、基本的に単独で暮らしており、寿命は3年ともちません。

イカは「ジッと待つ」自制心をもつことが判明! 無脊椎動物で初めて確認
(画像=ヨーロッパコウイカ / Credit: Roger Hanlon、『ナゾロジー』より引用)

その中で研究チームは「イカの狩猟スタイルが自制心を進化させたのではないか」と推測します。

イカは、岩場や海藻の中でカモフラージュをしたまま、長い間一か所に隠れ続けます。

そして獲物が現れたら瞬時に捕食し、またカモフラージュをして身を潜めます。

この「ジッと待つ」スタイルにイカがこだわる理由は、もしカモフラージュせずにぶらぶらしていると、彼ら自身が捕食対象となるからです。

ジッと動かずに待ち伏せする、耐え忍ぶ習性が、イカに自制心をもたせたのかもしれません。

イカは「ジッと待つ」自制心をもつことが判明! 無脊椎動物で初めて確認
(画像=アレクサンドラ・シュネル氏 / Credit: Grass Foundation、『ナゾロジー』より引用)

シュネル氏は「無脊椎動物に初めて自制心が見つかったことで、生物における知性進化の起源解明に一歩近づいた」と話します。

その一方で、イカが自制心を働かせる行動原理はほぼ理解されておらず、今後も継続的な調査が必要です。

イカは研究されるごとに驚きの能力を露わにしていますが、ほかにどんな秘密を私たちに隠しているのでしょうか。

参考文献
A Cephalopod Has Passed a Cognitive Test Designed For Human Children
THIS SURPRISING CEPHALOPOD CHALLENGES OUR UNDERSTANDING OF HUMAN EVOLUTION

元論文
Cuttlefish exert self-control in a delay of gratification task

提供元・ナゾロジー

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