ヒトが刺されると最悪死に至ることもある猛毒を持つヒアリ。
本来日本には存在しない種ですが、2017年に日本にも入ってきたというニュースが世間を騒がせました。
ただ、ここ数年はあまり話題に上がらなくなったと思っている人もいるかもしれません。
しかし実はヒアリの脅威は今もなくなっておらず、日々水際で対策を行っているのが現状です。
そんな中、意外なものがヒアリ対策になるとして注目を集めています。
それが日本人には馴染み深い食品「ワサビ」です。
この記事では、日本におけるヒアリ侵入の現状と、ワサビの辛味成分を使ったヒアリの忌避・燻蒸剤の研究についてご紹介します。
目次
ヒアリはどんな生き物?日本にはいるの?
危険なヒアリの忌避剤に「ワサビ」が有効!
ヒアリはどんな生き物?日本にはいるの?
ヒアリは南米大陸原産の赤みがかったアリで、尻に強力な毒針を持つことで知られています。
漢字で書くと「火蟻」で、刺されたときに火傷のような痛みを伴うことが由来となったそうです。
テレビなどでは「殺人アリ」などと呼ばれることもありますが、これは重篤なアナフィラキシーショックが起こった場合で、ほとんどの場合は命に関わることはなく、赤く腫れて痛むといった症状のようです。
生息地が広がるヒアリ
南米原産のヒアリですが、輸送のグローバル化に伴い世界的に生息地が広がっており、「世界の侵略的外来生物ワースト100」に選定されています。
日本でも、2017年5月に神戸港で見つかったのを皮きりに、各所の港で見つかっており「特定外来生物」に指定されました。
しかし、最初に見つかった2017年にはニュースを賑わせていたものの、最近はめっきり名前を聞かなくなった印象があります。
結局、日本には入ってきているのでしょうか?
定着はしていないものの80例以上のヒアリを確認
結論から言うと、現在のところ日本でヒアリの巣や繁殖は確認されていません。
つまり、海外から入ってきてはいるものの定着はしていない状態と言えるでしょう。
ただ全く心配がないのかというと、そういうわけでもありません。
日本と若干緯度が異なる台湾ではすでにヒアリが定着してしまっており、また環境省の報告によると2022年6月15日現在、最初にヒアリが発見された2017年6月から数えて85例のヒアリの日本侵入が確認されています。
直近のヒアリの発見は2022年5月25日となっており、年々温暖化が進む現在、決してヒアリの驚異がなくなったとはいえない状況なのです。
今後はより一層の水際対策が求められます。
危険なヒアリの忌避剤に「ワサビ」が有効!
そんなヒアリの水際対策として期待されているのが「ワサビ」です。
ワサビの辛味成分であるアリルイソチオシアネート(AITC)は、これまでコバエなどに対する忌避効果が報告されてきました。
そんなワサビの辛味成分AITCですが、ヒアリに対しても忌避・殺虫効果があることが示されました。
兵庫県立大学の橋本氏らの研究グループは、AITCがヒアリに及ぼす影響について調査を行い、2019年にはAITCによるヒアリの忌避効果を、2020年にはAITCによるヒアリの燻蒸殺虫効果を発表しています。
AITCマイクロカプセルによるヒアリの忌避効果
ワサビの辛味成分であるAITCがヒアリに対して忌避効果があるか検証するため、すでにヒアリが定着している台湾で実験が行われました。
実験は、AITCをマイクロカプセル化して練り込んだ「ワサビシート」と、AITCマイクロカプセルの入っていない「ワサビ抜きシート」を入れたヒアリ用の罠を作成し、どちらに多くのヒアリがはいるか検証したものです。
実験の結果、「ワサビ抜きシート」の罠には平均157匹ものヒアリがかかっていましたが、「ワサビシート」の罠にかかったヒアリは0でした。
ワサビの辛味成分AITCはヒアリに対して高い忌避効果を示したのです。
2019年に最初に発表されたこの研究は、AITCをマイクロカプセル化して用いるという点で画期的でした。
安全な植物性の防虫剤として名高いAITCは、揮発性が高く、また刺激の強い臭いを持つため、気密性の低い輸送用段ボールに用いることは難しいとされてきました。
しかし、マイクロカプセル化することで、AITCの揮発性や刺激性を抑えることができるようになったのです。
2022年にはこのマイクロカプセル化したAITCを用いたわさびシートが気密性の低い段ボールの中でもヒアリに対する忌避効果を示したと発表されています。
この輸送用の段ボールにワサビシートを用いれば、コンテナ内にヒアリが入り込むことを防げるかもしれません。
AITCマイクロカプセル化はヒアリの燻蒸も可能に
ここまで、AITCのヒアリに対する忌避効果についてご紹介してきましたが、2020年にはマイクロカプセル化したAITCを用いてヒアリの駆除を行えるといった内容も発表されています。
マイクロカプセル化したAITCをペレット状に加工したものを用いて24時間燻蒸を行ったところ、対象となったヒアリは死亡もしくは瀕死の状態で、翌日には全て死に絶えたそうです。
また、この燻蒸に用いられたAITCペレットは、段ボールの中でも13日間もの間、ヒアリ殺虫に有効な成分ガス濃度を保つことができました。
このAITCペレットを用いることで、ヒアリを駆除しながら荷物を輸送することも可能となります。
AITCは他の燻蒸剤と違い、天然のものであり大気中で容易に分解されることから、燻蒸を行った際に人体に有害な物質が残存することもありません。
このため、これまで燻蒸を行うことが難しかった食品輸送などへの使用も期待できます。
輸送のグローバル化により各国に侵入・定着し「世界の侵略的外来生物ワースト100」にも選定されているヒアリ。
日本ではかろうじて現在定着はしていないものの、今年に入ってからも侵入が報告されており、より厳しい水際対策が望まれます。
そんな中、日本ならではの「ワサビ」はヒアリの忌避・殺虫に確実な有効性を示しています。
「ワサビ」の成分を使ったヒアリ対策の研究は進んでおり、実用化まであと一歩というところです。
人体にとっては安心な「ワサビ」で、ヒアリの侵入・定着を防ぐことができることを期待します!
参考文献
危険生物ファーストエイドハンドブック 陸編 特別編集「ヒアリ」(PDF)
特定外来生物ヒアリに関する情報(環境省
Wasabi Compound Fumigant Found to Be Effective against Fire Ants
気密性の低い段ボール箱でも、マイクロカプセル化わさび成分シートをヒアリ忌避剤として有効に活用できることを証明
元論文
The effect of fumigation with microencapsulated allyl isothiocyanate in a gas-barrier bag against Solenopsis invicta (Hymenoptera: Formicidae)
Wasabi versus red imported fire ants: preliminary test of repellency of microencapsulated allyl isothiocyanate against Solenopsis invicta (Hymenoptera: Formicidae) using bait traps in Taiwan
提供元・ナゾロジー
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