コロナの影響で、これまでと異なる環境で作業をしなくてはならないという人はかなり増えていると思います。
そんな作業環境の変化は、私たちにどう影響を与えているのでしょうか?
千葉大学の研究チームが発表した新しい研究は、室内の温度やにおいなど環境データを取得することで、そこにいる人のストレスや集中力など心の状態を高い精度で推定することに成功した報告しています。
この結果は、快適なオフィス環境の設計などに役立つかもしれません。
研究論文は、科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されています。
目次
オフィス環境は快適ですか?
環境データだけでそこにいる人のストレスを検知
オフィス環境は快適ですか?
あなたが学習や労働をしている室内の環境は、快適でしょうか?
私たちは環境からさまざまな影響を受けています。
ちょっと暑かったり、寒かったり、機械の振動がうるさかったり、たばこや食べ物のにおいが漂っていたり…それは私たちに少しずつストレスを与え、疲労を蓄積さえ、覚醒状態を低下させる要因になっているかもしれません。
最適な環境を整えられなければ、作業効率が低下したり人為的ミスが増えたり、またメンタルヘルスに悪影響を与えることになるかもしれません。
コロナの影響で自宅で作業したり、人が減ったために狭いオフィスに移動なんてことがあると、環境はガラッと変わってしまいます。
温暖化の影響で、空調の温度は毎年同じ様に設定していたのでは快適さを保てなくなるかもしれません。
こうしたオフィス環境を適切に維持するためには、環境データと人間の心的状態を把握して改善していく必要があります。
これまで、こうした問題を調査するためには、アンケート調査を行ったり、生体センサを取り付けてモニタするなどの方法が取られてきました。
しかし、アンケートでは個々人の意見が強調されすぎてしまうため、個人の主観的な解明には有用ですが、集団の客観的な解明には不向きです。
体温や心拍数など生体データを使って解析するという方法は、いちいちセンサを人体に取り付ける必要があるため、普段の生活の中では利用しづらい方法です。
そこで、今回の研究チームは、非接触で取得した情報だけで、オフィスに居る人たちの心的状態を推定するシステムの開発に乗り出したのです。
環境データだけでそこにいる人のストレスを検知
そこで今回の研究チームが行ったのは、温度、湿度、照度、照明色、におい、音などの人の知覚に関わる環境データや、CO2濃度、微粒子などの室内環境データと、人間に取り付けた生体センサからの皮膚体温、心拍などの生理的データを収集して紐付けるというものでした。
この総合的に取得されたデータは、深層学習(人工知能による情報処理技術)によって、それぞれの関連性の精度をあげていきました。
そして、最終的には、接触型の生体センサを人に取り付けることなく、環境から取得されたデータだけで、室内にいる人の真敵状況を推定できるようにしたのです。
実験では、研究室で作業する10名(教員2名、学生8名)を対象に、このシステムが利用されました。
その結果、最終的には、個人のストレスや集中度合い、疲労度、快適度などを、環境データだけで80%以上の精度で推定することに成功したのです。
これは世界初の、環境を測定するだけで、そこにいる人達の心の状態を推定できるシステムといえます。
この成果は、今後ストレスの少ない働きやすい労働環境や、教育環境をサポートするためのシステム開発に貢献していくでしょう。
こうしたシステムが常に最適な環境にオフィスを調節してくれるようになれば、室内の設定温度で喧嘩することや、変なニオイが気になって作業に集中できないなんて問題も起きなくなるかもしれません。
集中できて疲れにくい環境が常に提供される、というのは、想像以上に素晴らしい世界かもしれません。
参考文献
世界初!非接触型環境センサでこころの状態を推定することに成功(千葉大学)
元論文
Predicting individual emotion from perception-based non-contact sensor big data
提供元・ナゾロジー
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