完璧になる前のスンドメが重要なようです。

カナダのオタワ大学(University of Ottawa)で行われた研究によって、完璧主義に囚われている人は、その手から創造性がこぼれ落ちていってしまうことが示されました。

完璧主義は創作においてクオリティーを高めるために有用であると考えられていましたが、研究では「完璧」よりも「完成」を目指す人のほうが、創造性が高い傾向にある様子が示されています。

しかし、いったいどうして完璧を目指すことが創造性の喪失につながるのでしょうか?

研究内容の詳細は『British Journal of Psychology』にて公開されています。

目次
完璧主義より完成主義のほうが創造性が高いと判明!
何も完成できてないけど創造性だけは高い?

完璧主義より完成主義のほうが創造性が高いと判明!

理想を追い求める完璧主義と、妥協する完成主義「創造性が高い」のはどちらの人?
(画像=完璧主義より完成主義のほうが創造性が高いと判明! / Credit:Canva、『ナゾロジー』より引用)

「完璧主義は創造性を損なう」という意見は古くからあります。

クリエーターにとって命とも言える創造性には、高い「柔軟性」や「好奇心」が重要な要素となっています。

しかし、思いつきで新しいアイデアを取り入れる姿勢は、完璧主義を目指す人にとっては、受け入れがたいものでしょう。

そのため頭の芯から完璧主義である人は創造的な仕事には向かないと考えられていたのです。

しかし、妥協を繰り返した末に完成した作品は、本当に創造的な作品と言えるのでしょうか?

独創的なアイデアをイメージ通り形にするためには、完璧主義に含まれる要素は必要不可欠なように思われます。

確かに、完璧を目指す忍耐力や持続力が壊滅的に不足している場合、いくらアイディアがあっても創作物は永遠に完成することはありません。

そのため完璧主義が創作の邪魔になるという意見は理解できますが、だからといって完璧主義が創造性を損なうとまで言って良いのでしょうか?

これまでの研究では、こうした完璧主義と創造性の直接的な関係性まではほとんど調べられておらず、完璧主義が本当に創造性を「損なう」のか? あるいは「促進する」のか? といった問題は謎のままでした。

そこで今回、オタワ大学の研究者たちが完璧主義が創造性に与える影響を、創造性を測定する複数のテストで調べることにしました。

調査に当たってまず参加者たちに心理テストを行い、参加者個人の仕事に対する態度が調べられると共に2つの異なる創造性を測るテストを行いました。

1つめのテストは、280人の大学生を対象に「2つの生活用品を組み合わせて思いもよらない使い方」を可能な限りたくさん考え出してもらうというものです。

たとえばトイレットペーパーの芯とまな板で小さなテーブルを作るなどです。

2つめのテストでは、可能な限りたくさん「無関係な単語を並べる逆連想ゲーム」を行ってもらいました。

こちらでは、たとえば「エビと半導体」「スプーンと浣腸」などの無関係な単語をつないでいきます。

いずれも回答数の豊富さから創造性を測ります。

結果、最も創造性が高いと判断されたのは「仕事の完璧さ好む完璧主義者」ではなく「仕事の完成を好む完成主義者(excellencism)」と呼ばれる人々であることが判明します。

(※「excellencism」の元となる「excel:エクセル」には卓越・優秀・長所・美徳といった意味が含まれていますが、excellencismが最も好む性質が「仕事の完成」であるため完成主義者と表現しています)

この結果は、適度な完璧さで妥協しつつ高品質な仕事を完成させられる人(ある意味でプロフェッショナルな人)が、最も創造性が高いことを示しています。

何も完成できてないけど創造性だけは高い?

理想を追い求める完璧主義と、妥協する完成主義「創造性が高い」のはどちらの人?
(画像=何も完成できてないけど創造性だけは高い? / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

今回の研究で、創造性が最も高いのは「完璧を目指す人(完璧主義者)」ではなく「完成を目指す人(完成主義者)」であることが示されました。

研究では完璧主義を「理想化された過度に高い基準を求める傾向」と定義する一方で、完成主義を「高品質で達成可能な基準を求める傾向」と定義しています。

そのため研究者たちは完璧主義は完成主義よりも過酷である一方で、不均衡・極端・不合理・不必要などネガディブな要素が存在していると述べています。

また仕事の完成よりも理想を求める完璧主義においては、創造性を犠牲に完璧さを求める傾向も見られるようです。

完璧主義は理想通りのものを実現させる原動力となるでしょうが、完璧を目指す過程で創造の余地や遊びを奪ってしまうようです。

一方で完成主義には完璧主義ほどの理想実現を追求する徹底さはありませんが、目的達成を第一とした柔軟さがあり、それがかえって創造性を開花させることにつながっていると考えられます。

もし漫画やイラスト、小説や作曲で悩んでいるなら、自分の理想を精密に実現しようという完璧主義からは離れて、完成のために柔軟に意見を変える完成主義に心を入れ替えてみるといいかもしれません。


参考文献

Study suggests that striving for excellence — but not perfection — boosts creative performance

元論文

Is perfectionism a killer of creative thinking? A test of the model of excellencism and perfectionism


提供元・ナゾロジー

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