国立感染症研究所(感染研)が発表する超過死亡ダッシュボードは、わが国の超過死亡を論じるにあたっての基本ツールである。私も、本年3月に、このダッシュボードで得られるデータを元に「昨年わが国で観察された戦後最大の超過死亡について」というタイトルで論考を投稿している。
鈴村氏の指摘があったように、6月に入って突然、このダッシュボードのグラフ自体が変更されてしまった。感染研は、変更の理由として全国の超過死亡数の算出法を、これまでは47都道府県のそれぞれの超過死亡数を積み上げて全国の値としていたのを、全国の観測死亡数から、直接、超過死亡数を算出する方法に変更したことによると説明している。
その結果何が起こったか? 変更前のグラフと変更後のグラフを比べてみれば一目瞭然であるが、超過死亡が観察された週が激増したのだ(図1)。
変更後は、わが国で65歳以上の高齢者にコロナワクチンの接種が開始された直後の昨年4月18日から9月26日までの24週のうち16週(67%)において予測値の上限を上回る超過死亡(以下、上限超過死亡)が観察されている。
一方、変更前のグラフでは同じ期間に上限超過死亡が観察されたのは、3週(13%)に過ぎない。変更後のグラフにおいて、9月26日以降しばらく上限超過死亡は観察されなかったが、高齢者に対し3回目ワクチン接種が本格的に開始された今年の2月には4週連続して超過死亡が観察されている。
そのほか注目すべきことに、すでに新型コロナの流行が始まっていた2020年の前半に過少死亡が観察されている。特に1月19日から7月19日までの27週のうち、15週(56%)において観察死亡数が予測閾値下限を下回っていた。
2021年に観察された戦後最大といわれる超過死亡の要因をどこに求めたらよいであろうか。この点についてこれまで主に議論されてきたのは、
- 新型コロナウイルス感染の流行
- 流行にともなう医療の逼迫
- 2020年に見られた過少死亡への反動
- コロナワクチン関連死 の4点である。
感染研の鈴木基感染症疫学センター長は、変更前のグラフのデータに基づいて、コロナワクチン関連死の可能性については明確に否定し、新型コロナウイルス感染の流行やそれに伴う医療逼迫の可能性を主張した。大手メデイアも鈴木説に追随している。
今回、ダッシュボードが変更されたことにより、この主張は変わるのだろうか。
感染研のダッシュボードを使えば、全死亡だけでなく死因別の超過死亡も調べることができる。実は、全死亡による超過死亡が観察された4月18日から9月26日までの24週のうち、13週(54%)に新型コロナウイルス感染症以外の原因による上限超過死亡が観察されている(図2)。
とりわけ、老衰が原因による超過死亡が19週(79%)に観察され、全死亡による超過死亡が観察された週と完全に合致した(図3)。すなわち、この期間の超過死亡の原因は主に老衰患者の激増によることが判明した。
アドバイザリーボードは新型コロナウイルス感染による404例の死因を報告しているが、死因を新型コロナウイルス感染症と記載しているのは、221例(55%)に過ぎない。悪性腫瘍(20例)、心不全(16例)など種々の病名が記載されているが、老衰(13例)も含まれている。
一方、本年5月13日に厚生科学審議会・予防接種ワクチン分科会から報告された1690例のワクチン接種後の死因のなかで、最も多いのは状態悪化(141例)で、これらの例では、死亡診断書の多くは老衰と記載されていると想像される。すなわち、老衰の激増は、新型コロナウイルス感染でもコロナワクチン接種でも説明可能である。
2021年に観察された超過死亡を2020年の過少死亡の反動で説明できるだろうか。9月の最終週以降4ヶ月間ほど超過死亡がみられなかったのが、3回目のワクチン接種が本格的に始まった2022年に入って再び超過死亡がみられるようになったことを考慮すると、この仮説では説明しにくい。2021年4月、2022年2月から観察された超過死亡は、高齢者ワクチン接種が開始された翌週ないし4週後に始まっている。
今回の超過死亡を医療の逼迫で説明可能であろうか。
2022年に始まった第6波では、コロナの感染者数は激増したものの入院患者に大きな増加は見られない。愛知県におけるコロナ関連病床の使用率は、ピークの2月下旬においても、コロナ病床が70%、重症者病床が30%ほどでまだ余裕が見られた。
昨年5月に観察された超過死亡についても、東京や大阪のような大都市圏のみでなく、コロナ感染による死者が0の鳥取県や島根県を含めて、全国一律に超過死亡が観察されたことは、医療の逼迫では説明つかない。すくなくとも、医療が逼迫して交通事故やがん患者の治療ができず、死者が激増したとは思えない。
国全体の人口動態は、まだ今年の3月分までしか公開されていないが、愛知県の人口動向調査はすでに4月分まで公開されている。愛知県においても、2022年2月の死亡者数は7449人で、前年の6134人と比較して、1315人、18%増加した。3月も同様に733人、10%増加し、全国の動きと同様である。ところが、4月の増加は226人、4%の増加にとどまっている。この急激な減少に超過死亡の原因を探る鍵があると思われる。
図4は、愛知県における、今年1月から4月の超過死亡数、65歳以上の高齢者に対するワクチン接種回数、コロナ感染による死亡者数を示す。ピークの2月における超過死亡数は1315人、コロナ感染による死亡者は448人で、その差は1000人近くある。
一方、65歳以上高齢者のワクチン接種回数は1月には22万回、2月には103万回に増加したが、3月には37万回、4月には、4万8千回と急速に減少した。超過死亡の動きは、コロナ感染による死亡者数と比べて、ワクチン接種回数の動きとより相関している。
超過死亡の要因は、決して、一つだけでなく、複合的なものであってもよい。とりわけ、今回の検討で超過死亡がみられた時期は、コロナ流行の第4・5波、第6波と一致しており、さらに、高齢者ワクチン接種が開始された時期とも一致している。
昨年来、わが国で見られた超過死亡の要因としては、先にあげた4つの要因が考えられるが、なかでも、ワクチン関連死が最も説明がつく。しかし、第4・5波、第6波の流行時期と一致していることから、コロナ感染による死亡数の増加も加わった複合要因によると考えるのが、最も妥当ではないかと思う。
なお、予防接種ワクチン分科会から報告のあるワクチン接種後の死亡例の累積は今年の5月の時点でも、1700人あまりに過ぎず、数万人に達する超過死亡との乖離を指摘するむきもある。この点については、先の論考でワクチン接種後の死亡例は一部しか報告されておらず、その推定値は超過死亡に近似することに言及しているので参照していただきたい。
文・小島 勢二/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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