小さな生き物が洪水を生き延びるには、チームワークが必要です。

中でもヒアリは、数千〜数万匹が寄り集まって、自分たちの体で筏(いかだ)をつくり、水が引くまで浮き続けます。

しかし、ヒアリはただプカプカと浮いているわけではありません。

筏をよく見ると、アリたちは常にせわしなく動き回っています。

一体、何をしているのか?

コロラド大学ボルダー校 (University of Colorado Boulder・米)が調べたところ、ヒアリたちはあるルールに従って、筏のフォーメーションを変えていることが判明しました。

果たして、そのルールとは?

研究は、6月30日付けで科学誌『Journal of the Royal Society Interface』に掲載されています。

目次
なぜ「ヒアリの筏」は沈まないのか?
筏のフォーメーションには規則があった!

なぜ「ヒアリの筏」は沈まないのか?

南米を原産とする「アカヒアリ(学名:Solenopsis invicta)」は、一つのコロニーで約30万匹を擁する、ヒアリの中でも最大規模の種です。

彼らは地下トンネルの巣が浸水すると、互いに手をとりあって筏をつくり、数週間ほど水面を漂います。

ヒアリの体には水をはじく撥水作用があり、細かな毛の間に気泡を溜め込むことができます。

その一匹一匹が緊密に連結することで、気泡も大きくなり、いわば巨大な浮き輪になるのです。

2017年8月に、記録的なハリケーン「ハービー」がテキサス州を襲った際には、浸水した町にたくさんのヒアリの筏が現れました。

こちらがその様子。(※ムシが苦手な方はご注意ください)

一見、土の塊が浮いているようですが、よく見ると無数のヒアリがうごめいているのが分かります。

ヒアリの筏は自由自在に形を変えますが、それがどのように行われているのかは解明されていません。

そこで研究チームは、ヒアリの筏を撮影し、その生成や形状変化のようすを観察しました。

筏のフォーメーションには規則があった!

チームは、水の入った容器の中央に棒を設置し、そこへ一度に約3000〜1万匹のアカヒアリを投入する実験を複数回おこないました。

水に落ちたヒアリは、棒を中心に寄り集まって、筏をつくります。

ここまでは予想通り。

次にチームは、画像追跡データとコンピュータのモデリング技術を使って、筏のどの部分が静止していて、どの部分が動いているのかを分析。

その結果、筏は層構造になっており、ヒアリのグループも2つに分かれることが判明しました。

1つは、水面側に密集して静止しているグループで、こちらはコロニーを水面に浮かすよう努めます。

もう1つは、その上にいるグループで、筏の上を四方八方に歩き回っていました。

そして、このグループ間で循環が起こっており、上を歩くヒアリたちは順次、下で支えるメンバーと交代していたのです。

ヒアリは洪水になると「生きているイカダ」をつくる
(画像=グループ間で循環していた / Credit: Robert J. Wagner et al., Journal of the Royal Society Interface(2021)、『ナゾロジー』より引用)

たとえば、筏の中心部に近い場所の下層にいたヒアリは、一度上に上がってきて(青〜赤)、筏の外縁部まで歩き(赤〜赤)、また下層へと戻っていきます(赤〜青)。

この循環を通じて、筏の大きさを収縮させたり拡大させたりし、あるいは触手のような長い橋を形成することもできるのです。

長い触手は、近くにある漂流物や土地へとコロニーが乗り移る際に使用されます。

ヒアリたちは、循環型のフォーメーションによって、安定した浮力を実現させていたようです。

ヒアリは洪水になると「生きているイカダ」をつくる
(画像=筏の形が変わるようす / Credit: Robert J. Wagner et al., Journal of the Royal Society Interface(2021)、『ナゾロジー』より引用)

ヒアリの行動は季節や時間帯、生息環境によって変化するため、筏の生成メカニズムにもまだ謎があると考えられます。

研究チームは今後、これらの環境要因を踏まえて、筏の力学をさらに追究していく予定です。


参考文献

Watch thousands of fire ants form living ‘conveyor belts’ to escape floods

Floating Fire Ant Rafts Form Mesmerizing Amoeba-Like Shapes

元論文

Treadmilling and dynamic protrusions in fire ant rafts


提供元・ナゾロジー

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