ドローンは人間が立ち入れない危険な地域でも活躍できますが、稼働時間の短さが課題となってきました。

重量や消費電力の関係から、どうしても長時間ホバリングしたり飛び続けたりできないのです。

そこでアメリカ・コロラド州立大学(Colorado State University)機械工学科に所属するジアンゴ・ジャオ氏ら研究チームは、消費電力なしで物体をつかめるグリッパー(gripper:くわえ爪)を開発しました。

このグリッパーを装着したドローンは、まるでコウモリみたいに枝ぶら下がって休憩することができ、電力を温存することができます。

研究の詳細は、2022年6月6日付の科学誌『IEEE/ASME Transactions on Mechatronics』に掲載されました。

目次

  1. 機械仕掛けで動作する省エネグリッパー
  2. 休憩にも運搬につ使えるドローン

機械仕掛けで動作する省エネグリッパー

グリッパーはUFOキャッチャーのアームのようにフィンガーを開閉させて、ものをつかむデバイスです。

そして従来のグリッパーでは、開閉のためにモーターなどの動力が用いられてきました。

コウモリのように枝にぶら下がって休憩できるドローンが登場!
(画像=従来のグリッパーは電力などで動く / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

重たいものをつかんで離さないため、また開閉のタイミングを任意で操作するためには、どうしても電力などの外部エネルギーが必要だったのです。

一般的なマシンであれば、外部エネルギーで動くグリッパーを装着しても、特に問題はありません。

しかし稼働時間を課題としているドローンでは、この余分な消費電力が足を引っ張ることになります。

では、軽くてほとんどエネルギーを消費しないグリッパーはあるのでしょうか?

コウモリのように枝にぶら下がって休憩できるドローンが登場!
(画像=開発された省エネグリッパー / Credit:Adaptive Robotics Lab(Youtube)_A Mechanically Intelligent and Passive Gripper(2022)、『ナゾロジー』より 引用)

研究チームは、この課題を解決すべく、電力を消費しない機械仕掛けで動くグリッパーを開発しました。

このグリッパーは、左右に開閉するフィンガーと、中央の衝撃パッドで構成されています。

コウモリのように枝にぶら下がって休憩できるドローンが登場!
(画像=機械仕掛けで動作するグリッパー。中央の衝撃パッドが押されてフィンガーが閉じる / Credit:Jianguo Zhao(Colorado State University)_Unpowered MIP gripper allows drones to passively perch and grasp(2022, New Atlas)、『ナゾロジー』より 引用)

通常の状態ではフィンガーが開いた状態ですが、つかもうとする物体によって衝撃パッドが押されると、その動きに連動してフィンガーが閉じるようになっています。

そして、そのまま持ち上げようとすると、つかんだ物体の重さで、フィンガーがしっかりと固定されるようになっているのです。

さらに閉じた状態で固定されたフィンガーは、物体を床に置くなどして、力が加わらなくなると、自然と開くようになっています。

コウモリのように枝にぶら下がって休憩できるドローンが登場!
(画像=3.7kgの水入りバケツを持ち上げることも可能 / Credit:Adaptive Robotics Lab(Youtube)_A Mechanically Intelligent and Passive Gripper(2022)、『ナゾロジー』より 引用)

電力を消費せず、任意でグリッパーの開閉が可能であり、しかも3.7kgの物体をつかんで持ち上げることもできるのです。

次項では、グリッパーを取り付けたドローンがどのように働くのか注目してみましょう。

休憩にも運搬につ使えるドローン

新しいグリッパーのドローン装着パターンは2種類あります。

下部に装着すると、まさにUFOキャッチャーのような形式になります。

ものをつかんで運べるのです。

コウモリのように枝にぶら下がって休憩できるドローンが登場!
(画像=従来のグリッパーよりも軽く、消費電力を抑えられる / Credit:Adaptive Robotics Lab(Youtube)_A Mechanically Intelligent and Passive Gripper(2022)、『ナゾロジー』より 引用)

しかもグリッパー自体は電力を消費しないので、通常のグリッパーよりも長時間の利用が可能でしょう。

研究チームは、新しいグリッパーが非常に軽量であることも強調しています。

従来のグリッパーの質量はドローン質量の10%以上になることが多かったようですが、「この新しいグリッパーは、ドローン質量の0.75%まで小さくできる」というのです。

軽ければ軽いほどエネルギー消費を軽減できるため、まさに極限まで省エネにこだわったドローン用グリッパーだと言えますね。

もう1つの装着パターンは、ドローンの上部にグリッパーを装着する、というもの。

これによって、木の枝や棒などにつかまってぶら下がることができます。

コウモリのように枝にぶら下がって休憩できるドローンが登場!
(画像=鳥のように止まり木で休憩できる / Credit:Adaptive Robotics Lab(Youtube)_A Mechanically Intelligent and Passive Gripper(2022)、『ナゾロジー』より 引用)

グリッパー開閉の仕組みは、床にある物体をつかんで持ち上げるときと同様です。

中央の衝撃パッドが木の枝に押されることでフィンガーが閉まり、ホバリングをやめたドローンの重量でフィンガーが固定されるのです。

そして再びホバリングを開始して重量が加わらなくなると、フィンガーが自然と開きます。

これによってコウモリがぶら下がって休憩するかのように、ドローンも休憩してエネルギーを温存できます。

ドローンに搭載されたカメラで周囲をモニタリングしたい場合でも、ホバリングを続ける必要がないため、かなりのエネルギー節約になるでしょう。

ドローンの課題を意識した「実用的なグリッパー」によって、今後ドローンはますます活躍していくはずです。

参考文献
Unpowered MIP gripper allows drones to passively perch and grasp

元論文
A Mechanically Intelligent and Passive Gripper for Aerial Perching and Grasping

提供元・ナゾロジー

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