風力発電は環境に優しい方法でエネルギーを生み出すことができます。

ところが一部の反対派からは「風力発電機のプロペラが鳥を殺す」と大きな反発を受けてきました。

実際に2013年以前では、アメリカの風力発電機により、毎年14万~32万8000羽の鳥が死亡していたのです。

こうした問題に対処するため、アメリカの企業「IdentiFlight」は、鳥が近づくと自動でプロペラを停止させるスマートカメラシステムを開発。

1月20日付けの科学誌『the Journal of Applied Ecology』によると、このシステムにより、ワシの死亡数が大幅に減少したとのことです。

目次
鳥を感知し、プロペラを停止させるスマートカメラシステム
ワシの死亡数を82%減少させることに成功

鳥を感知し、プロペラを停止させるスマートカメラシステム

風力発電機のバードストライクを解決! 鳥が近づくとプロペラを止める「スマートカメラ」がワシの命を救う
(画像=1km先の鳥を感知し、風力発電機を停止させる / Credit:IdentiFlight、『ナゾロジー』より 引用)

新しく開発されたスマートカメラシステムは、鳥の接近を感知でき、風力タービン(プロペラ)を停止させることができます。

鳥の感知を可能にしているのは、頭部に取り付けられた8つの広視野カメラです。これにより、周囲の映像を絶えず監視しているのです。

しかし、鳥以外にも、雲、牛、車、人、飛行機など移動するものはたくさんあります。

そこでIdentiFlightテクノロジーは、「マスキング」アルゴリズムが採用。鳥に近い動きだけを自動的に判断し、その他は無視することができるのです。

その後、取得したデータは基地局に転送され、鳥の飛行経路を分析。関連する風力発電のプロペラを停止させるかどうか判断します。

ちなみに分析できる情報は、3次元位置情報、速度、軌道、保護すべき対象種などであり、1km離れた場所を飛んでいる鳥でも数秒以内に分析結果を出せるとのこと。

ワシの死亡数を82%減少させることに成功

スマートカメラシステムの効果を確かめるために、アメリカ・ワイオミング州の風力発電地帯で比較調査が行われました。

2つの異なるエリアの風力発電機176基を観察対象とし、片方のエリアには47台のスマートカメラシステムを導入。

その結果、スマートカメラシステムがワシの死亡数を82%減少させました。

IdentiFlight社は、「IdentiFlightのスマートカメラシステムが、風力発電と鳥類の共存を促進できると証明しました」と述べています。

風力発電機のバードストライクを解決! 鳥が近づくとプロペラを止める「スマートカメラ」がワシの命を救う
(画像=スマートカメラシステムの導入でワシの死亡率が82%減少 / Credit:IdentiFlight、『ナゾロジー』より 引用)

ただし今回の調査では、もともとの年間ワシ死亡数が風力発電機1基あたり約7.5頭でした。

そしてスマートカメラシステム1台には、150,000ドル(1,580万円)の設置費用と、年間8,000ドル(84万円)のメンテナンス費用が必要だと報告されています。

ですから風力発電会社は、保護する鳥の数やメンテナンス費用、スマートカメラシステムの効果範囲を分析したのち、導入するか判断することになるでしょう。

かなり費用が掛かるため、すぐに導入するのは難しいと考える企業も多いかもしれませんね。

それでもIdentiFlight社の新しいシステムは、環境や自然、動物に配慮した取り組みであり、大きな保護結果を提出しています。

今後、鳥類保護に対する認識やシステム費用に変化があるなら、設置したいと考える発電会社も増えることでしょう。


参考文献

Smart Cameras That Stop Wind Turbines When Birds Approach Massively Reduce Eagle Deaths

元論文

Eagle fatalities are reduced by automated curtailment of wind turbines


提供元・ナゾロジー

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