今の中高年の多くがトレーニングを始めたころは、アーノルド・シュワルツェネッガーのような極太の上腕二頭筋や、厚みと幅のある胸筋を作りたいと夢見たものである。トレーニング開始当初から、前鋸筋を発達させたいなどと思っていた人などいなかったはずだ。
勝利を引き寄せる前鋸筋の存在
前鋸筋を英語では「セラタス」という。筋発達に目覚めたばかりのころはよく分からなかったことも、だんだんこの世界にどっぷり浸かっていくにつれて、カーフの深部にあるヒラメ筋や大腿部前面の縫工筋、背中を構成する菱形筋、前腕の伸筋などに目がいくようになり、徐々にそういった部位の発達にまで関心を寄せるようになる。
解剖図を見ると、目立ちはしないが、確実にそこにある筋肉に興味が湧き、その部位を何とか発達させたいと願うようになる。今回は、そんなマニアックな人たちのために、前鋸筋という筋肉部位に焦点を当ててみたい。
細かい部位に気を配る
ウエイトトレーニング人口が増え、身体づくりに興味を持つ人たちが近年は目に見えて増加してきた。そのため、ボディビルやフィジークなどのコンテストを観戦すると、レベルの高い選手が増えたような印象を受ける。
もはや腕が太いとか、胸の厚みがあるとか、腹筋のシックスパックが浮かび上がっているという程度では、コンテストで上位入賞することも難しくなってきた。そういった要素はどの選手も当たり前のように持ち合わせているからだ。そのため、甲乙つけがたい僅差での順位争いということになれば、勝敗を分けるのは細かい筋肉部位ということになってくる。
トレーニングや調整の過程では、細かい部分にはあまり目が行き届かないものだ。しかし、そういう部分がきっちりと仕上げられていれば、他の部位の仕上がりも申し分がないということに他ならない。だから接戦になっている場合は細かい部分が審査されるのだ。細かい部分の仕上がり具合を見れば、どちらの選手がより大きな努力を注いで身体づくりをしてきたのかを判断することができる。
かっこいい雰囲気の身体づくりなら、いわゆる「ビーチマッスル」と言われる筋肉の発達だけ考えていればそれでいい。しかし、コンテストに出場し、さらに上位入賞を目指したいというのであれば、ビーチマッスルを鍛えるだけでは到底太刀打ちできない。
もちろん、ビーチマッスルを否定するつもりはない。例えば、かっこいい身体に不可欠なシックスパックの腹筋づくりはトレーニングだけでなく、食事にも気を配る必要がある。努力の末に彫り込まれた腹筋は、いかにも若々しくて健康的で、あふれるほどのエネルギーに満ちた人物に見える。誰もが憧れる身体とはそういうかっこいい身体なのだ。
ただ、本格的なボディビルダーは、そのレベルをはるかに超える身体を目指していく。例えば今回の主役である前鋸筋は、決して大きな筋肉ではないし、よほど絞れていないと表面には現れてこないような筋肉だ。見事な腹筋をつくり上げ、さらに深く刻み込まれた立体的な前鋸筋があれば、それはもうかっこいい身体のレベルを超えて、本格的なボディビルダーの証といっても過言ではないだろう。
文・William Litz/提供元・FITNESS LOVE
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