子どもが減るとCO2は大幅減

5月は「日本は子どもの数が最小、40年連続の減少」「米国の出生数、40年ぶり低水準、6年連続減」「中国の出生数が2割減、最大の落ち込み」など、異常なニュースが続きました。晩婚化、若年層の所得減少、社会構造の変化に加え、新型肺炎コロナも影響しています。

コロナによる出生率低下は地球環境によい
Tomwang112/iStock(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

日経をみると、「コロナが押し下げ、成長の重荷に」(5/6、ワシントン)、「伸びぬ人口、縮む生産年齢層」(5/7、日米欧)、「若者の将来不安を拭え」(5/6、社説)など、総じて悪材料と判断しています。

国連人口基金によると、「2020年の世界人口は78億人、前年に比べ8000万人増。日本は40万人減で世界11位」(3/23)です。さらに「今後30年で20億人増加し、50年には97億人と推計される」です。

都市化の影響も大きい地球温暖化、異常気象の多発、難民の増加などを目の当たりにするにつけ、「地球は100億人はおろか、現在の70億人も養えない、収容できない」と、私は思ってきました。

それぞれの国にとって人口増はよくても、それらを足し算した場合、地球環境全体にとってよくない結果が起きる(合成の誤謬)。逆にそれぞれの国にとってよくなくても、地球全体にとってはいい。

「子どもの数を意図的、政策的に減らしていく」「人間の意図とは関係なく、社会構造の変化が子どもの数を減らす」「感染症の流行によって、意図ぜざる変化が起きる」など、様々な動きが重なっていくのです。

「人口減は新型肺炎コロナによる影響もある」と、冒頭に書きました。コロナで亡くなられた338万人(世界)の人、遺族の人たちにとっては、耐え難い悲劇です。それを否定するつもりはありません。

一方、一つ一つの悲劇の悲しみは覚えながら、大きな視点から歴史のトレンドを見つめ、人類にとってどうなのかを考えることは必要です。コロナ後は人口減少社会に向かい、コロナが拍車をかけるのです。少なくとも、先進国、中国はそうなります。

出生率の低下の記事が目立つ中で、英フィナンシャル・タイムズのコラム「温暖化抑制への誤解と自信」(5/9、日経)が異彩を放っていました。「ドラム式の洗濯乾燥機を使わない、低消費電力の電球への切り替え、車を運転しない、リサイクルの進展。どれをとっても微々たる効果」。

CO2の削減量は車なしは2・4トン、他は1トン以下です。小泉環境相が推奨する「レジ袋廃止」もその類でしょうか。小泉氏が閣僚として宣伝するほどのものではありません。

では何がいいのか。「子どもの数を1人減らすことよって、年間でどれだけのCO2排出を減らせるか。推計値は58・6トン。評価が過大との声はあっても、他を圧する削減量になっている」と。

環境科学の英専門誌エンバイロメンタル・リサーチが2017年に発表したデータで、「もっとも効果があるのは自分の子どもを1人減らすこと」というのが結論です。つまり人口減少の薦めです。

世界の一次エネルギー(石炭、石油、天然ガス)の消費量と人口の推移をグラフに書くと、カーブが一致するそうです。人口が増えるからエネルギー消費が増えるのか、産業活動が活発になって経済成長するから養える人口が増えるのか。恐らく双方向性の関係にあるのでしょう。

世界史に残る感染症を振り返ると、14世紀のペスト(黒死病)では、欧州人口の3分の1に相当する2ー3000万は亡くなりました。天然痘(1520年)では5600万人、スペイン風邪(1918)年では4-5000万人の死者です。

今回の新型肺炎の死者がどこまで超えていくか分かりません。はっきりしているのは、「医学、医療の格段の発展により、過去ほど死者は増えない」「同時にグローバリゼーションで世界の結びつきが強まり、パンデミック(世界的大流行)は起きやすくなっている」です。

出生数の減少とコロナとの関係をみると、感染拡大で結婚を延ばした、妊娠を避けたなどが原因でしょう。子どもの数(4月時点)は日本の場合、12-14歳が324万人、0-2歳が265万人ですから、コロナの影響は大きい。

コロナが収束すれば結婚、妊娠が回復するかといえば、そうとは限らない。コロナ後の経済社会構造の見通しが不透明で、将来不安から結婚をあきらめる、妊娠の時期を失っているなどの問題があります。

人口が世界最大の中国では、出生数が前年比2割減(20年の国勢調査)の大きな落ち込みです。高齢化が進み、年金、医療などの社会保障制度の維持が難しくなる。中国にとって、少子化は懸念材料であって、人口減少、経済成長の鈍化は他国からみると、歓迎すべきことかもしれない。

「人口をいかに増やすかは、米国だけでなく日欧など先進国に共通した課題」(5/7、日経)は、間違った認識でしょう。目先の景気、経済成長、社会保障制度の維持にとっては、「共通した課題」であっても、「地球環境の持続的維持に向け、人口減社会に軟着陸する」がコロナ後のテーマです。

21世紀に向けたテーマを掲げた「アジェンダ21」は、1992年に地球サミット(国連環境開発会議、ブラジル)で採択され、「人口減少を奨励することを目的とした政策の実施」を30年前に提案していました。

文・中村 仁

編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年5月18 日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

文・中村 仁/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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