市場に首を突っ込む者としてはこの2年強の動きは極端すぎます。コロナで原油価格がマイナスになり、株価は暴落したと思ったら奇跡の大逆転で「コロナ富裕層」が生まれます。カウチに寝そべりながらスマホの株式掲示板で盛り上がる銘柄でお祭り騒ぎでした。FRBはコロナの影響度と出口判断ミスがあり、遅すぎた姿勢転換になるのですが、物価高が急速に進み、利上げのペースは「これから3回の会合で1.75%の引き上げも」と論じられかつてない利上げのペースでこれまた「お初」の事態になります。

誰が悪い、円安、株安、物価高:アルゼンチン化する日本
(画像=GoranQ/iStock、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

円相場は岸田内閣発足時からじわっとした円安で怪しい動きをしていましたが、今年3月からは目が覚めるような動きとなり3か月半で20円も円安になりました。私はまだ円安がそこまで意識されない頃「悪い円安が始まる」と申し上げたのですが、考えてみれば円安にはメリット、デメリット双方あるので一概には良い悪いでは表現できないのだろうとその表現を引っ込めてきました。ただ、輸出側も為替ヘッジしているのでダイレクトに為替メリットが取れる企業は以前ほどではなく、株価がそれで上昇するわけでもなく、全体論としては急速な動きは全く好ましくありません。

それでも日本のインフレ率は2%を超えた程度で欧米のそれに比べると極めて優等生です。なぜ、日本のインフレ率が低廉に収まっているかといえば全ての関連する企業の努力が根底にあります。それこそ、輸入商社や船会社、問屋やメーカーに小売店全てがどんどん薄利になっていきます。企業物価指数は二桁上昇でもそれは素材、原材料の値上げなので残りのコストである人件費やその他経費が一定であれば最終消費者への物価は数%の上昇で収まります。

欧米では賃金インフレが起きています。不動産もバカ高く、賃料の上昇が止まりません。つまり、付帯する部分も上がっているのでストレートに消費者物価に反映されます。今の状態は日本をどんどん貧乏にするサイクルに入っているのですが、政府も企業もゆでガエル状態です。

一番嫌なケースは海外が「日本の物価はまだ安定しているから円安を放置しても耐えられるだろう」とうがった見方をする可能性です。そうなると物価は更に上昇の一途を辿ってしまいます。

岸田首相は夏の選挙対策を外交で逃げようとしているという論評がありました。当たっているかもしれません。ただ、国内の選挙で外交はポイントになりにくいというのが世の東西を問わず世間相場です。仮にこれから世論が円安物価高に向かえばほぼ無策の岸田政権は仮に選挙で勝っても厳しい立場に追いやられるかもしれません。

アメリカではこの物価高の原因はバイデン大統領にありという世論の声があります。私も同様のことを述べました。船便が遅延し、港湾労働者はストライキをし、輸送コストが上がった点は多少なりとも政権がもう少しうまくやる方法があったと思います。原油の供給についてはバイデン氏が中東との外交関係を悪くしたことでアメリカに協力しようという姿勢がないのです。今のウクライナの戦争ですら、アメリカが悪いというトーンが強まっています。つまり、バイデン氏悪玉論です。

ここから連想するなら日本でも物価高に対する政権への期待と批判はより強まるとみています。ただ、もう一つ、内閣は相当の改造をした方がよいと思います。大臣はほとんど誰も記憶に残らないほど活躍していない気がします。大臣が目立たないということは官僚の足腰が弱まっているということでしょう。ここに落とし穴があるとすればこれは危機的状況になります。大所高所からの国家論をぶつほどの信念を持った官僚が消え、サラリーマン官僚が増えた可能性はあります。上級国民でも全く構わないので国家を守る、強くするという気構えが官僚には必要です。

ここまで書いてふと思った今日のタイトル「誰が悪い、円安、株安、物価高」。私はフラットな社会を標榜する現代社会が真のリーダーを作らず、国民を引っ張り上げることが出来なくなったのが原因の一つではないかと帰着しました。民主主義という名のポピュリズムでSNSの声をフラットに受け入れ「そうだよね」と共鳴しやすい声をメディアが取り上げてきたのです。メディアは「いいね」を意識する忖度ビジネスそのものになり下がったことも一因でしょう。

日本は早くぬるま湯から抜け出し、立ち上がらねば本当にアルゼンチン化してしまう瀬戸際にいるような気がします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年6月14日の記事より転載させていただきました。

文・岡本 裕明/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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