ワークアウトにおいてストレッチはどれくらい重要なのだろうか。『ジャーナル・オブ・インジュリー・リハビリテーション』は、ケガから復帰するためのリハビリ情報誌だが、それによるとストレッチは関節の可動域を広げて競技能力を高めたり、柔軟性を向上させて再びケガを負う危険性を軽減するのに役立つとしている。
『アメリカンカレッジ・オブ・スポーツメディスン』の会合でも、週2〜3回のストレッチは多くの人に役立つと発表されている。この場合のストレッチは、動作を伴わないスタティックストレッチ(筋肉を伸ばした状態でしばらく停止するストレッチ)で、ウォームアップのあとに行うことが勧められている。ストレッチはまた、ワークアウトの最後に行うことも推奨されている。というのも、ワークアウトによって刺激を受けた筋肉は緊張状態で硬く萎縮している。これをほぐすことで疲労物質が血流によって押し流されやすくなり、疲労回復を促すことにつながるのだ。
ストレッチのタイミング
ところで、ストレッチはいつやってもいいのだろうか。トレーニング歴の長い人なら、これまでにコーチや先輩たちから一度は聞かされたことがあるのではないだろうか。ワークアウト前やトレーニング中にストレッチをすると競技能力(筋力)が落ちるという話だ。これについては、実はある研究結果が根拠となっていたのだが、新しい研究も行われているので紹介しておきたい。2019年発行の『ジャーナル・フロンティア・イン・フィジオロジー』誌によると、筋力&パワートレーニングの前に行われるウォームアップルーティンの中に、60秒程度のスタティックストレッチ(静的ストレッチ)を組み込んだところ、競技能力にマイナスの影響はほとんど見られず、むしろ柔軟性が高まり、筋肉や腱などにケガを負うリスクが軽減されたということだ。研究者たちは、ハイレベルなアスリートにとって、わずかなことが結果を大きく左右するので十分な注意が必要なのは間違いないと前置きした上で、少なくとも競技前に行うストレッチに関しては、これが筋力やパワーの低下を招くとは言い難いとしている。ストレッチを行うタイミングとしてはワークアウト前、ワークアウト中(セット間)、ワークアウト後などがあるわけだが、ウォームアップと同じようにストレッチも積極的に行ったほうがよさそうだ。ワークアウトの本番セットに向けた準備では、ウォームアップ同様にストレッチも有用なのだ。また、セット間の休憩中にストレッチを行う人もいる。これはストレッチに可動域を広げたり、柔軟性を高めたりする効果があるためだ。さらに、血液の循環を改善することにもなるので、栄養や酸素が傷ついた筋線維に運搬されやすくなり、疲労回復を促すことにもなる。ワークアウト後のクールダウンにストレッチを行うのも非常にいい。多くのトレーニーは、ワークアウト直後から数日後まで筋肉痛に見舞われる。これは遅延性筋肉痛(DOMS)と言われるもので、ワークアウトを終えてからも傷ついた筋線維にはさまざまな物質が傷に浸潤して炎症を起こしたり、痛みを引き起こしたりすることを意味している。
ストレッチで筋肥大が促進!?
実は、クールダウンにストレッチを採用することで、このDOMSを軽減することができるのだ。DOMSが消失してからでないと筋線維の傷修復は始まらないので、クールダウンにストレッチを行うことでDOMSが軽減され、それによって傷の修復が促され、筋肥大がより効率よく、より早く行われると考えることができる。実際、プロボディビルダーたちの多くは、ストレッチが筋肥大につながると信じている。その理由はこうだ。筋肉は筋線維の束によって構成されていて、その筋線維は筋膜と呼ばれる薄い膜によって束ねられている。ストレッチはその筋膜を伸ばすことになり、つまりは筋線維1本1本がより太くなるスペースを生むことになるというわけだ。そのためストレッチは筋肥大にプラスになると信じられているのである。ストレッチが推奨される理由については、いずれも実験によって裏付けがされている。例えば『ジャーナル・オブ・ヒューマンキネティクス』誌によると、ワークアウト後にPNFストレッチを行うことで運動の可動域を広げたり、筋力やパワーを向上させたり、競技能力を向上させる作用があるそうだ。ちなみに、PNFストレッチとは、筋肉を伸ばしながら神経を刺激し、凝り固まった筋肉をゆるめていくタイプのストレッチだ。 PNFは日本語にすると固有受容性神経筋促通法のことで、筋肉と腱の境目にあるゴルジ腱器官や、筋肉の中にある筋紡錘と呼ばれる感覚器の緊張をゆるめるストレッチ法である。これらの感覚器は、筋肉が過剰に伸ばされまいとして作動するのだが、感覚器の緊張がゆるみ、感知する能力が低下すると、筋肉をしっかり伸ばすことができるようになる。ボディビルダーにとってストレッチは、筋肉と筋肉の境目、すなわちセパレーションをはっきりと強調するためにも効果がある。体脂肪を絞るだけでも筋肉と筋肉の境目は明確になってくるが、日頃からストレッチをしっかり行っておくことで、個々の筋肉の輪郭がより強調され、セパレーションの際立ったフィジークを完成させることができるのである。
文・Sarah Chadwell, NASM-CPT/提供元・FITNESS LOVE
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