現在、プラスチックのリサイクルは効率的ではありません。

リサイクルを続けることで劣化して品質が悪くなったり、リサイクル後に少しの割合しか回収できなかったりするのです。

こうした背景にあって、ドイツ・コンスタンツ大学化学科のステファン・メッキング氏ら研究チームはリサイクル後に96%以上回収できる新しいプラスチックを開発しました。

分子構造に「壊れやすいポイント」を組み込むことで、従来の10倍に近い効率でリサイクル可能になったとのこと。

詳細は、2月17日付けの科学誌『Nature』に掲載されました。

目次
従来のプラスチックリサイクル法
植物油由来の新プラスチックのリサイクル回収率は96%

従来のプラスチックリサイクル法

従来の10倍近い効率でリサイクルできる「持続可能な新プラスチック」が開発される
(画像=従来のプラスチックリサイクルには課題が多い / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

現在行われているプラスチックのリサイクル法のほとんどは、メカニカルリサイクル(物理的再生法)です。

これは、回収・分別したプラスチックを細かくスライスし、新しいプラスチック材料に利用するというもの。

しかしリサイクルの過程で不純物が混じるため、リサイクルするたびに品質は悪化し、結局は新しいプラスチックが製造されることになります。

もう1つのリサイクル法はケミカルリサイクル(化学的再生法)です。

これはプラスチックの鎖状ポリマーを熱や溶剤で分解し、材料としてポリマーの成分を回収するという方法ですが、回収効率が高くありません。

例えば、最も一般的なプラスチックである「ポリエチレン」は、結合を壊してモノマーを回収するために600℃の熱を必要としますが、リサイクル回収率は10%未満です。

つまり既存のリサイクル法には、「劣化」または「低回収」という問題があるのです。

そこで研究チームは、リサイクル回収率の高い新しいプラスチックを作り出すことにしました。

植物油由来の新プラスチックのリサイクル回収率は96%

従来の10倍近い効率でリサイクルできる「持続可能な新プラスチック」が開発される
(画像=新プラスチックのリサイクル回収率は96% / Credit:Stefan Mecking、『ナゾロジー』より引用)

研究チームが新しく作成した2種類のプラスチック化合物(ポリエステル構造、ポリカーボネート構造)は、高効率でケミカルリサイクルさせるために化学的な結合が壊れやすくなっています。

分子構造に「ブレークポイント」を組み込むことで分解に必要なエネルギーを小さくしたのです。

結果として、新プラスチックはエタノールやメタノールを触媒にして120℃、触媒を使用せずに150℃でリサイクル可能。

またリサイクル後に、初期材料の96%が回収されたとのこと。これは従来のケミカルリサイクルの10倍近い回収効率だと言えます。

新プラスチックが普及するなら、プラスチックのほとんどはリサイクルで循環することになり、ゴミやプラスチック生産を極限まで削減できるでしょう。

これはプラスチックの埋め立てなどのさまざまな問題の解決にも繋がります。

また、新しい素材は植物油から作られるため環境に優しく、従来の化石燃料プラスチックの代替品として期待できます。

従来の10倍近い効率でリサイクルできる「持続可能な新プラスチック」が開発される
(画像=新プラスチックを用いたスマホカバー / Credit:Stefan Mecking、『ナゾロジー』より引用)

ただしメッキング氏によると、新素材の1つの欠点はコストにあるとのこと。

例えば、エチレンは化学産業の中で最も安価なビルディングブロック(化合物のパーツ)です。

そのため彼は「現在の市場および法的枠組みで、従来のポリエチレンと競争することは非常に難しい」と述べています。

世界的にコストではなくリサイクルを優先するようなメカニズムがないと、新素材が普及するのは難しいのかもしれません。

今後、研究チームは新しい材料をさらに改善し、最終的には生産規模の拡大を目指しています。


参考文献

New plant-based plastics can be chemically recycled with near-perfect efficiency

元論文

Closed-loop recycling of polyethylene-like materials


提供元・ナゾロジー

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