米5月消費者物価指数(CPI)は前月比1.0%上昇し、市場予想の0.7%を上回った。2006年2月以来の伸びとなった3月の1.2%に近い水準に。2020年6月以降、24ヵ月連続で上昇した。原油価格が120ドル台へ戻すなか、エネルギーが上昇に反転。また、ロシアとウクライナの輸出比率が高い小麦など供給制約の深刻化を受け、食品は高止まりを続けた。その他、中古車が再び上昇したほか、帰属家賃が物価を押し上げ。半面、航空運賃や娯楽、宿泊、自動車保険など経済活動の再開で押し上げられた費目は、前月比で鈍化した。
内訳を前月比でみると、エネルギー(全体の7.3%を占める)が3.9%上昇し、前月の2.7%の下落を打ち消した。ガソリンも同4.1%上昇し、前月の6.1%の下落から一転した。なお、全米自動車協会(AAA)によると、米国のガソリン小売価格は油価につれ再び上昇、6月10日には4.986ドルと5ドルを突破したも同然だ。全米50州(ワシントンD.C.を入れれば51)のうち、5ドル超えはカリフォルニア州(6.42ドル)を筆頭に21州を数える。その他のエネルギーでは、電力など公益が3.0%上昇し、前月の1.3%を上回った。電力が1.3%と前月の0.7%を上回ったほか、ガスが8.0%と前月の3.1%を超え2005年10月以来の伸びを記録した。
エネルギー以外では食品(全体の13.4%を占める)が前月比1.2%上昇、コロナ禍で経済活動が停止した20年4月(1.4%)以来で最高の伸びとなった。詳細をみると、食費が同1.4%上昇し、20年4月以来の加速を示した2月の1.5%に迫った。ウクライナ情勢緊迫化が続くなかシリアル・パンは同1.5%上昇、前月の1.1%から再加速した。外食は同0.7%と前月の0.6%を超え4ヵ月ぶりの高い伸びに。肉類・卵・魚が1.1%と前月の1.4%を下回ったとはいえ、高止まりが続く。なお、肉類の高騰を背景にバイデン政権は1月3日、寡占状態の食肉加工業者の間で競争を推進すべく、独立業者を支援するため10億ドル投じると発表した。
CPIコアは4月に続き前月比0.6%上昇し、市場予想の0.5%を上回った。なお、21年6月は同0.9%と1982年6月以来の伸びへ加速していた。
チャート:CPIの費目別寄与、前月比はガソリンなどエネルギーが押し下げたものの食品とその他が上昇に寄与
食品とエネルギー以外をみると、燃料価格の上昇に加え航空会社大手が2022年の黒字化を予想したように需要拡大も重なり、航空運賃は前月比で過去最高の伸びを記録した。宿泊も、コロナ感染者の減少を追い風に2ヵ月連続で上昇しただけでなく、8ヵ月ぶりの加速となった。一方で、自動車保険や服飾、家賃、娯楽、新車は前月以下の伸びにとどまった。中古車は2ヵ月連続で下落し、1968年以来の落ち込みとなった。エネルギー関連と食品・飲料以外で主要な項目の前月比は、以下の通り。
(上昇費目)
・航空運賃 12.6%の上昇、7ヵ月連続でプラス<前月は18.6%の上昇と統計開始以来で最高
・中古車 1.8%の上昇、4ヵ月ぶりにプラス>0.4%の下落、3ヵ月連続でマイナス
・新車 1.0%の上昇、4ヵ月連続でプラス<前月は1.1%の上昇
・宿泊 0.9%の上昇、4ヵ月連続でプラス<前月は1.7%の上昇
・服飾 0.7%の上昇、過去8ヵ月間で7回目の上昇>前月は0.8%の下落
・自動車保険 0.5%の上昇、5ヵ月連続でプラス<前月は0.8%の上昇
・住宅 0.6%の上昇、上昇トレンドを維持>前月は0.5%の上昇
・帰属家賃 0.6%の上昇、上昇トレンドを維持し1987年12月以来の高い伸びに並ぶ>前月は0.5%の上昇
・医療サービス 0.6%の上昇、11ヵ月連続でプラスで19年10月以来の高い伸び>前月は0.5%の上昇
・家賃 0.6%の上昇、プラスのトレンドと1987年11月以来の高い伸びを維持=前月は0.6%上昇
・娯楽 0.4%の上昇、5ヵ月連続で上昇=前月は0.4%
・教育 0.2%の上昇、2ヵ月連続で上昇=前月は0.2%の上昇
(横ばい、下落項目)
当サイトで取り上げる主要項目では、なし
CPIは前年比で8.6%上昇し、市場予想と前月の8.3%を上回った。1981年12月(8.9%)以来の上昇率となる。CPIコアは同6.0%上昇し、市場予想の5.9%を上回った。ただし、前月の6.2%を下回りロシアによるウクライナ侵攻前の1月以来の低い伸びとなる。
チャート:CPIの前年比、費目別の寄与など
――米5月CPIは前月比でガソリンなどエネルギーが上昇を再開したほか、食品も20年4月以来の高い伸びを記録し全体を押し上げました。一方で、コアは中古車や帰属家賃などが再加速したものの、航空運賃を始め宿泊、自動車保険、娯楽など、経済活動の再開で盛り返してきた費目が前月の伸びを下回り、コアCPIの小幅鈍化につなげています。
さて、その経済活動の再開を受け物価の伸びが顕著な費目を20年2月比でみてみましょう。中古車は前月比で4ヵ月ぶりに上昇するなか、20年2月比で50.6%と前月の47.9%を上回りました。食品が上振れしたように、肉類・魚・卵(前月:同21.8%→今回:23.2%)を始め食費(今回:同15.4%→今回:17.0%)、外食(前月:11.7%→12.5%)などの伸びが引き続き前月超えに。需要拡大に支えられ、一方、前月比で伸びが鈍化した航空運賃(前月:10.7%→今回:24.6%)宿泊(前月:12.5%→14.5%)など、引き続き高い伸びを記録しました。
チャート:経済活動の再開で上振れが目立った費目、20年2月からみた上昇率は航空費が急伸しプラスに転じたほか、食品、宿泊の上昇トレンドが顕著に
CPIの13.7%を占める食品は、前述の通り食費、シリアル・パン類、肉・魚・卵、外食などロシアのウクライナ侵攻もあって20年2月比で右肩上がりを続けています。食品は前年同月比でも10.1%上昇し、1981年3月以来の2桁乗せとなりました。費目別では、食費(前月:10.8%→11.9%)、肉類・魚・卵(前月:14.4%→14.2%)、シリアル・パン類(前月:10.3%→11.6%)、外食(前月:7.2%→7.4%)。ロシアによるウクライナ侵攻が長期化するなか、配送問題もあって高止まりするリスクをはらみます。
チャート:食費の費目全てが20年2月から右肩上がりを継続
7.3%を占めるエネルギーはは前年同月比で34.4%上昇し、1980年5月以来の高い伸びを記録しました。ガソリン(前月:43.6%→今回:48.7%)、ガス(前月:22.7%→今回30.2%)、電力(前月:11.0%→今回:12.0%)と、それぞれ高止まりを継続。その他、エネルギー以外で生活する上で必要な食費に加え、家賃(前月:4.8%→今回5.2%)と1986年10月以来の高い伸びでした。
チャート:食費に加え生活必需品のガソリン、電力・ガス料金のほか、家賃も家計を圧迫へ
物価の高止まりは、実質賃金の伸びを押し下げ続けています。5月の実質平均時給は前年同月比3.0%下落、14ヵ月連続でマイナスだっただけでなく、下落率は21年4月以来で最大でした。生産労働者・非管理職も2.5%下落し、1年ぶりに大きな下げ幅となっています。
チャート:実質賃金の下落に加え、エネルギーや食品、家賃など生活必需品の値上げが消費の重石に
インフレ高進による実質賃金の下落は消費余地を狭め、こちらでご説明した通り女性や高齢者の労働参加率の上昇につながっています。ただ、労働市場が逼迫する割りに失業率は低下せず、せっかく労働市場に戻ってきても必ずしも就職で来ていない様子が浮かび上がります。また、4月消費者信用残高でクレジットカードの回転信用(リボルビング)残高がコロナ前である20年2月を超え、前月比で178億ドル増と過去最高をつけた256億ドルに次ぎ過去2番目の伸びでした。4月にこちらで指摘しましたように、既に貯蓄率が4.4%と2008年9月以来の水準に落ち込むなど貯蓄の取り崩しが難しく、消費者が支出にあたってクレジットカードに依存しつつある実態が浮かび上がります。そうなると、足元の好調な個人消費はサステナブルではないと言えるでしょう。
チャート:消費者信用残高、回転信用は伸びと合わせインフレ加速につれ上向き
コアCPIに鈍化の兆しが見られたとはいえエネルギーや食品などの上振れした結果、Fedの積極的な利上げ警戒が再燃しています。FF先物市場ではNY時間午前11時の時点で75bp利上げを織り込み始め、年末までに3.0~3.25%へ引き上げる確率が40.2%と2.75~3.0%(6月以降で50bpの利上げ3回、25bpを2回)を逆転しました。
チャート:FF先物市場は年末までに3.0~3.25%39.2%、3.25~3.5%が30.5%に上昇
お陰で米株などリスク資産が急落し、米10年債利回りは低下、ドル高は一服。Fedの積極的な利上げによる景気後退懸念の再燃が、再び金融市場を揺らし始めました。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2022年6月8日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。
文・安田 佐和子/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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