プラスチックの大量リサイクルの鍵を握るのは、ワームかもしれません。

このほど、豪クイーンズランド大学(University of Queensland)の研究により、「ゾフォバス・モリオ(Zophobas morio)」というゴミムシダマシ科のワーム(幼虫)に、発泡スチロールを食べて消化できる能力が発見されました。

また、消化能力の秘密は、ワームの中の腸内細菌が作り出す「酵素」にあるとのこと。

この酵素を人工的に生産できれば、廃棄プラスチックの大量リサイクルも夢ではないでしょう。

研究の詳細は、2022年6月9日付で科学雑誌『Microbial Genomics』に掲載されています。

※この記事では実際のワームの画像は最後のページで紹介します。虫が苦手な方の閲覧は2ページ目までにしましょう。

目次
増え続ける「プラスチック廃棄物」をいかに処理するか?
発泡スチロールを食べて体重が増加!

増え続ける「プラスチック廃棄物」をいかに処理するか?

プラスチックは今や、あらゆる生活シーンで使われていますが、その耐久性の高さゆえに、生分解が困難になっています。

(生分解:バクテリアや菌類などの微生物が、有機物および無機物を分解し、自然に還すこと)

廃棄プラスチックの量は2000年以降、急速に増え続けており、2019年には年間3億5300万トンの廃棄量に達し、過去最高を記録しました。

さらに、経済協力開発機構(OECD)の報告によると、リサイクルできる量は全体のわずか9%で、19%は焼却処分、50%が埋め立て地へ移送、残りの22%は未管理のゴミ捨て場で処分されたり、環境中に漏れ出したりしているという。

「発泡スチロール」を食べて消化できるスーパーワームを発見!
(画像=ポリスチレンに気泡を含ませて作ったものが「発泡スチロール」 / Credit: canva、『ナゾロジー』より引用)

中でも、特に問題視されているのが「ポリスチレン」の処理です。

ポリスチレンは、世界中で最も多く生産されているプラスチックの一種であり、生分解が困難な素材として知られます。

また、ポリスチレンに気泡を含ませて作ったものが「発泡スチロール」で、汎用性が高い分、廃棄量も多くなっています。

この発泡スチロールをいかに処理するかが、専門家たちの大きな争点となっていました。

そして今回、クイーンズランド大の研究チームは、その解決の鍵が「ワーム」の中にあることを突き止めたのです。

発泡スチロールを食べて体重が増加!

これまでにも、プラスチックを食べられるワームの存在は、何度か指摘されています。

そこで研究チームは、ラボ内で飼育している「ゾフォバス・モリオ(Zophobas morio)」の幼虫を用いて、実験を行いました。

本種の幼虫は、別名「スーパーワーム(superworm)」と呼ばれ、普段はおもに、鳥やトカゲのエサ用として大量生産されています。

同じ用途に供されるミールワームより体が倍以上大きいことが、「スーパー」の由来です。

今回の実験では、スーパーワームを3つのグループに分け、それぞれ異なる摂食条件に設定します。

1つ目には「糠(ぬか・穀物を精白した際に出る副産物)」を、2つ目には「発泡スチロール」を与え、そして3つ目は「絶食」としました。

この条件で3週間おいた結果、スーパーワームは、発泡スチロールをエサとして食べられることが判明したのです。

もちろん、糠を与えた条件で、最も体重増加が見られましたが、発泡スチロールでも、3週間を生き延びただけでなく、わずかな体重増加が確認できたのです。

「発泡スチロール」を食べて消化できるスーパーワームを発見!
(画像=発泡スチロールがエサになる⁈ / Credit: Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

これについて、研究主任のクリス・リンケ(Chris Rinke)氏は「スーパーワームが腸内細菌の助けを借りて、ポリスチレンを消化し、エネルギーを得られていることを意味する」と説明しました。

実際、メタゲノム解析(環境サンプルから回収された遺伝物質を調べる手法)を行ったところ、スーパーワームの中に、プラスチックを分解できる「酵素」がいくつかあることが判明しています。

これらの酵素は腸内細菌が作り出すものであり、その働きのおかげで、ワームはポリスチレンを消化できていたようです。

「スーパーワームは、”小さなリサイクル工場(mini recycling plants)”のようなもので、ポリスチレンを口で細かく噛み砕き、それらを腸内で消化しているのです」と、リンケ氏は話します。

チームは今後、この酵素について更なる研究を重ね、将来的には、人工的に酵素を製造して、大量のポリスチレンを分解できるようなシステムを作りたい、と考えています。

これが実現すれば、世界中のプラスチック廃棄量を大幅に減らせるかもしれません。

最後のページにて、実際にワームが発泡スチロールを食べている様子の画像及び動画を紹介します。苦手な方は閲覧に注意してください。

※ 次ページは、実際のワームの画像を含みますので、苦手な方はご注意ください。