初期人類の初めての料理は、直火焼きではなく温泉を使った煮込みかもしれません。
9月15日付けで科学雑誌『PNAS』に掲載された論文によれば、170万年前の人類遺跡のすぐ近くに、熱水を噴出する温泉の形跡が発見されたとのこと。
初期人類による最初の火の使用痕跡は最古のもので150万年前とされています。つまり、もし初期人類が近所に噴出する熱水を調理に利用していた場合、最古の料理は人工的な火起こしによる「直火焼き」ではなく自然環境を利用した「煮込み」となるのです。
研究を主導したマサチューセッツ工科大学(略称: MIT)の研究者たちは、今回の発見を契機に、世界中の初期人類遺跡の近くに温泉があったかどうかを調べるプロジェクトを立ち上げるとのこと。
初期人類も現代人と同じように温泉を有効活用していたのかもしれません。
目次
初期人類は火の使用が始まる前から噛む力と消化機能を脆弱化させていた
最初のバーベキューの前に存在した天然の鍋
初期人類は火の使用が始まる前から噛む力と消化機能を脆弱化させていた
初期人類(ホモ・エルガステルおよびホモ・エレクトス)が火を使うようになったのは100~150万年前と考えられています。
しかし興味深いことに、当時の初期人類の歯や腸は、既に柔らかな食べ物に適応して小さく、短くなっていました。
この事実から、初期人類は火の使用を始める前に、既に何らかの方法で食べ物の調理をはじめていたことが予想されます。
しかしながら、これまで初期人類の「最古の料理方法」は謎に包まれていました。
最初のバーベキューの前に存在した天然の鍋
研究対象である初期人類の化石の宝庫、タンザニアのオルドバイ渓谷で採れた170万年前の地層成分から、興味深い脂質成分が検出されました。
分析の結果、この新たな脂質成分は植物や動物由来のものではなく、イエローストーン公園などでのみられる「Thermocrinis ruber」という種類の細菌のものだと判明します。
Thermocrinis ruberは80度以上の熱湯の中でのみ生活する超好熱菌として知られています。
この事実は170万年前、初期人類が生活していた環境のすぐ近くに、常に沸騰する「天然の鍋」があったことを意味するのです。
当時まだ火を使う術を知らなかった初期人類にとって、これほど調理に向いた環境はありません。
狩りによって捕えた動物や地下から掘り出したイモ類の根は、そのままでは寄生虫に汚染されていたり、硬くて食べるのが困難。しかし煮込むことさえできれば、寄生虫の問題も硬さの問題も解決できます。
そのため研究者たちは、初期人類の歯や腸が脆弱化した背景には、火の使用以前に天然の鍋の使用があったからだと考えました。