恐竜界のスターである「ティラノサウルス(学名:Tyrannosaurus rex)」の新たな能力が明らかにされました。

福井県立大学は、最新研究で、ティラノサウルスの下アゴの化石をCTスキャンし、血管や神経が通る内部の管を3次元で復元。

その結果、下アゴの先端には多数の血管や神経が集中しており、触覚が鋭敏に発達していたことが示されました。

これにより、獲物の肉と骨の選り分けや、子どもを咥えて持ち上げるなど、繊細な作業ができたと考えられます。

研究は、8月22日付けで学術誌『Historical Biology』に掲載されました。

目次

  1. 肉と骨を選り分ける「繊細な作業」ができた?

肉と骨を選り分ける「繊細な作業」ができた?

恐竜は、中生代の三畳紀(約2億5000万〜2億130万年前)に登場し、後に続くジュラ紀に栄え、白亜紀(〜約6600万年前)まで存在しました。

その中で、人気・知名度ともにトップに君臨するのが、ティラノサウルス(以下、Tレックス)です。

一方で、意外と知られていませんが、Tレックスは白亜紀後期の約6800万年前に出現したので、その活躍期間はかなり短いものでした。

Tレックスの研究は恐竜の中でもっとも進んでいますが、研究チームは今回、詳しいことがあまり分かっていない「下アゴ」について調査を開始。

アメリカ・モンタナ州にあるヘルクリーク累層(Hell Creek Formation)で発掘された全長89センチのTレックスの左下アゴの化石を対象に、コンピューター断層撮影装置(CT)で解析しました。

それをもとに、世界で初となる、Tレックスの下アゴに分布する血管・神経が通る管の3D復元に成功しています。

Tレックスの下アゴに繊細な「触覚センサー」があったと判明 肉と骨の選り分けもできた?
(画像=下アゴの化石をCTスキャンし、神経系を復元 / Credit: Soichiro Kawabe et al., Historical Biology(2021),『ナゾロジー』より 引用)

その結果、特に下アゴの先端部に血管や神経の管が多数集中し、複雑に枝分かれしていることが判明しました。

枝分かれするほど管の密度も高くなり、下アゴの触覚はかなり鋭敏だったと考えられます。

研究チームによると、その触覚レベルは、きわめて鋭い感覚を持つ現代のワニや鳥類に匹敵するとのこと。

また、トリケラトプスやフクイサウルスといった恐竜と比較したところ、Tレックスの下アゴの神経は、他のどの恐竜よりも複雑に発達していました。

Tレックスの下アゴに繊細な「触覚センサー」があったと判明 肉と骨の選り分けもできた?
(画像=下アゴの3D復元像 / Credit: Soichiro Kawabe et al., Historical Biology(2021),『ナゾロジー』より 引用)

これらは、Tレックスが、口先に当たる獲物の動きや素材のわずかな違いに敏感であったことを示唆します。

具体的には、肉と骨の選り分け、子どもを口で優しく咥える、口部の触れ合いで仲間とコミュニケーションを取る、といった行動に使われていたでしょう。

さらにチームは、複雑な神経が上アゴにも存在したと考えており、それによって三叉神経系が鼻の中で鋭敏なセンサーとして働いていた可能性も指摘しています。

Tレックスの鼻の感度は、本研究で比較したどの鳥盤類(草食系の恐竜)よりも高度であり、茂みの中でカサカサと動く獲物を敏感に感知したと予想されます。

(恐竜は鳥盤類と竜盤類に分かれており、ティラノサウルスは竜盤類の中の獣脚類に分類されます。ちなみに、現代の鳥類は獣脚類から進化したとされ、ややこしいですが、鳥盤類とは関係ありません。)

Tレックスの下アゴに繊細な「触覚センサー」があったと判明 肉と骨の選り分けもできた?
(画像=Credit: jp.depositphotos,『ナゾロジー』より 引用)

以上の結果から、Tレックスはこれまで考えられていたように、口部が鈍感で、なんでもかんでも口に放り込み、肉を骨ごと噛み砕いていたというイメージが完全に一新されました。

おそらく、私たちが口の中で魚の身と骨を選り分けるように、かなり繊細な作業ができたのでしょう。

これからの恐竜映画には、これまでの凶暴性に加え、繊細さを加味した新たなTレックス像に期待したいところです。


参考文献

T. rex’s jaw had sensors that made it an even more fearsome predator

元論文

Complex neurovascular system in the dentary of Tyrannosaurus


提供元・ナゾロジー

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