従来のディスプレイは電源が入っていない状態では基本的に真っ暗です。そして発光させることで情報を表示する仕組みとなっています。

中国・吉林大学化学部に所属するYu-Mo Zhang氏ら研究チームは、透明かつ非発光の超薄型ディスプレイを開発しました。

この新しいディスプレイは電流を通すことで不透明になる技術が採用されており、目に優しく、将来的にはさまざまな用途に利用できます。

研究の詳細は、3月10日付の科学誌『Chem』に掲載されました。

目次
不透明化技術の改善
透明薄型ディスプレイによる電子書籍リーダー

不透明化技術の改善

新しいディスプレイは、一見普通の薄いガラスのように見えますが、電流を通すことで不透明化します。

これによりディスプレイ全体の色を変えたり、部分的に不透明にして文字を浮かび上がらせたりできるのです。

この不透明化技術は以前から存在しており、太陽光の通過量を調整するスマートガラス窓などに利用されてきました。

ところが既存の技術では、幅広い色を生成できずコントラスト比も低いという欠点がありました。

そのため窓に利用できても、高性能なディスプレイとして活用することは難しかったのです。

分子の力で色を変える「非発光性の透明ディスプレイ」が開発される
(画像=金属イオンの価数が切り替わって、分子の間に新たな結合が形成される / Credit:Yu-Mo Zhang、『ナゾロジー』より 引用)

研究チームはこれらの欠点を克服するために、切り替わり可能な色素と多価金属イオンを用いた色素誘導を開発しました。

電流が流れると金属イオンの価数が切り替わり、分子の間に新たな結合が形成されます。

結果として構造が変化し、別の色へと変わるのです。

透明薄型ディスプレイによる電子書籍リーダー

分子の力で色を変える「非発光性の透明ディスプレイ」が開発される
(画像=複数の色素を表現可能 / Credit:Yu-Mo Zhang、『ナゾロジー』より 引用)

新しい研究により、従来の不透明化技術の欠点は改善されました。

透明ディスプレイは、マゼンダ、紫、シアン、黄色など複数の色素で機能し、高いコントラスト比を提供することもできたのです。

続いて研究チームは、透明ディスプレイを利用した電子書籍リーダーのプロトタイプを開発しました。

分子の力で色を変える「非発光性の透明ディスプレイ」が開発される
(画像=新しい電子書籍リーダーは透明なのに文字だけが浮き出たり消えたりする / Credit:Yu-Mo Zhang、『ナゾロジー』より 引用)

新しい電子書籍リーダーは2枚の超薄型透明ディスプレイで構成されており、それぞれの厚さはたったの0.25ミリメートルです。

電流が流れると即座に文章だけが表示されるようになっています。

利用されている分子は可逆性をもつで、電圧を逆にして再び透明に戻すこともできます。

また非発光なので明るい場所での読みやすさが向上しており、目に優しい電子書籍リーダーとなっています。

研究チームによると、この新しい技術は電子書籍リーダーだけでなく、看板やその他のさまざまなデバイスに利用できるとのこと。

今後研究チームは、さまざまな色素を組み合わせたカラフルな画像表示を目標にしています。


参考文献

An electrically charged glass display smoothly transitions between a spectrum of colors

元論文

A see-through electrochromic display via dynamic metal-ligand interactions


提供元・ナゾロジー

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