豊橋技術科学大学らの研究グループは、植物プランクトンの一種である「Dicrateria rotunda(以下、D. rotunda)」に、炭化水素の合成能力があることを発見しました。
D. rotundaはベーリング海に生息していますが、温暖化による海氷減少に伴い、北極海へと侵入し始めています。
調査の結果、本種の北極海株ARC1は、炭素数10〜38までの炭化水素を合成できることが判明しました。
同じ合成能力をもつ植物は、炭素数が狭い(おもに15か17)ことで知られます。
しかし炭素数10〜38は、ガソリン(10〜15)、ディーゼル油(16〜20)、燃料油(21以上)と同等です。
これほどの合成能力をもつ生物は前例がなく、地球にやさしいバイオ燃料の開発に期待がかかります。
研究は、7月19日付けで科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。
炭素合成能は同属の植物プランクトンに共通して存在した
Dicrateria属は北極海だけでなく、太平洋や大西洋など広く分布しています。
そこで研究チームは、日本とフランスの研究機関が保有する10種のDicrateria属の炭化水素組成を調査。
すると、すべての株に、北極海株ARC1と同じ炭素数10〜38までの炭化水素を合成する能力があることが判明しました。
つまり、石油と同等の炭化水素を合成する能力は、Dicrateria属に共通して存在することを意味します。
次にチームは、今回発見された北極海株ARC1を対象に、光・温度・窒素栄養塩濃度の条件を変えた場合での炭化水素量の変動を調べました。
その結果、光合成ができない暗室状態や窒素栄養塩を欠乏させた条件で、炭化水素の総量が約5倍に跳ね上がることがわかったのです。
ふつう、炭化水素がエネルギー貯蔵物質として使われる場合、光合成のできない暗室状態ではエネルギー源として消費され、細胞内の含有量が低下します。
ところが、北極海株ARC1では暗条件で増加したことから、炭化水素がエネルギー貯蔵物質として機能していないと推測されました。
D. rotundaの合成する炭化水素は、石油と同等の成分であり、バイオ燃料として十分使用できます。
しかし問題は、合成される「量」です。
具体的には、D. rotundaの単位細胞量あたりの炭化水素の含有量は、生物源オイルとして実用されたことのある「ボツリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)」の2.5〜20%しかありません。
チームは今後、「合成条件の最適化や遺伝子改変を通して、炭化水素量の効率的な増加を目指したい」と述べています。
温暖化が深刻になる今、化石燃料の削減は日本だけでなく、世界的な課題です。
そのために、太陽光や風力といった自然エネルギーの利用に加え、化石燃料を生物由来のバイオ燃料に換えることが求められています。
Dicrateria属は、バイオ燃料を大きく飛躍させる存在となるかもしれません。
公開日:2021.07.20 TUESDAY
参考文献:
植物プランクトンDicrateria rotundaが 石油と同等の炭化水素を合成する能力をもつことを発見
元論文:
A novel characteristic of a phytoplankton as a potential source of straight-chain alkanes
提供元・ナゾロジー
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