画期的な研究により、脊髄損傷で麻痺したマウスが、たったの2週間で再び歩けるようになりました。

詳細は、ドイツのルール大学ボーフム細胞生理学科のディートマー・フィッシャー氏ら研究チームが、1月15日付けの科学誌『Nature Communications』にて公開しています。

報告によると、損傷した脊髄を回復させるカギは、自然界に存在しない特殊な人工タンパク質だったとのこと。

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損傷した神経線維の再生を刺激する、新しい麻痺治療

現在、世界中の540万人が脊髄損傷による麻痺を抱えています。

この麻痺は、事故により神経線維(軸索)が損傷し、脳と筋肉の間で信号を伝達できなくなることで生じます。

損傷した脊髄を再びつなぐ遺伝子治療に成功! 2週間でマウスが歩けるように
(画像=神経細胞と神経線維(軸索) / Credit:Quasar Jarosz/wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)

現在軸索を再生することはできないので、患者は一生麻痺したままで生きていかなければなりません。

これまでの研究では、損傷部位をバイパスすることで、一部の四肢機能を回復させようとしてきました。

しかし新しい研究では、再度、不可能だと考えられてきた軸索の再生を試みました。

損傷した軸索をハイパーインターロイキン-6(hIL-6)というタンパク質で刺激して再生させようとしたのです。

hIL-6とは神経細胞の再生を刺激するために微調整された合成タンパク質のことです。

ただし自然界には存在しない特殊な合成物なので、遺伝子工学でしか作ることができません。

そのため研究チームは、「hIL-6を生成するための遺伝子命令をもつウイルス」を作り上げ、脳の運動野に注入。体内で産出させるという方法を試みました。

カスタマイズウイルスを注射されたマウスが、2~3週間で再び歩けるように!

実験には、脊髄の損傷によって両後肢が麻痺したマウスが用いられました。

マウスの脳にカスタマイズされたウイルスを注射すると、注射部位近くの運動ニューロンと呼ばれる神経細胞でhIL-6の生成が開始。

ちなみに、これらの細胞は軸索を介して、歩行などの運動過程に重要な他の脳領域の神経細胞とも繋がっています。

そのためhIL-6は、注射部以外の重要な神経細胞にも輸送されることになりました。

結果として、「神経細胞の再生を刺激するhIL-6」が、運動機能に関連する脳内の様々な神経細胞と、脊髄内のいくつかの運動経路軸索で、同時に効果を発揮。

損傷した脊髄を再びつなぐ遺伝子治療に成功! 2週間でマウスが歩けるように
(画像=治療後のマウス(左)1週間後 , (右)8週間後 / Credit: Dietmar Fischer、『ナゾロジー』より 引用)

これにより、マウスは治療を受けた2~3週間後には歩きはじめることができました。

フィッシャー氏によると、「これまで完全な麻痺の後に再生した例は無かったので、当初はとても驚きました」とのこと。

研究チームは現在、hIL-6の投与方法を改善するための研究を行なっています。

フィッシャー氏は「将来的にヒトに応用できるか示すことになるでしょう」とも述べており、今後の進展にも期待できます。

提供元・ナゾロジー

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