ニワトリ(学名:Gallus gallus domesticus)は今や、私たちの生活に欠かせない存在となっています。

これまでの研究によると、ニワトリは、中国および東南アジアでは約1万年前に、ヨーロッパでは約7000年前に家畜化されていたと言われていました。

ところが今回の新たな研究により、この数字が大幅に間違っていたこと、さらに、ニワトリの家畜化は驚くほど最近であったことが明らかになったのです。

ドイツ・イギリス・フランスの国際研究チームによると、ニワトリの家畜化は、約3600年ほど前の東南アジア(タイ)で始まったと判明。

さらに、当初ニワトリは食用ではなく、文化的な崇拝対象として西洋に伝わったことが示されました。

研究の詳細は、2022年6月6日付で科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences』、および6月7日付で科学雑誌『Antiquity』に掲載されています。

目次
家畜化のきっかけは「稲作」だった?
渡来初期のニワトリは「食用」でなく「崇拝」されていた

家畜化のきっかけは「稲作」だった?

「家畜ニワトリ」の誕生時期が判明! 実は驚くほど最近だった!
(画像=セキショクヤケイ / Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

2020年の遺伝子研究で、ニワトリの誕生は、東南アジアのジャングルに生息するキジの一種「セキショクヤケイ(Red Junglefowl)」が家畜化された結果であることが示されています。

しかし一方で、その家畜化の時期については諸説あり正確に特定されていません。

そこで研究チームは今回、世界の89カ国にある600カ所以上の遺跡から発見されたニワトリの遺骨を収集し、再分析。

ニワトリの骨格から埋葬場所、骨が見つかった地域の社会・文化といった歴史的背景なども綿密に調査しました。

その結果、最も古いニワトリの骨は、タイ中部にあるバン・ノン・ワット(Ban Non Wat)遺跡のもので、年代は紀元前1650年〜1250年頃と判明したのです。

これは、文献に記された記録などを根拠に先行研究が示してきた年代よりはるかに最近のことです。

「家畜ニワトリ」の誕生時期が判明! 実は驚くほど最近だった!
(画像=稲作を機にヤケイと人の距離が縮まった? / Credit: canva、『ナゾロジー』より引用)

チームはまた、家畜化の原動力となったのは、東南アジアに伝来した「稲作」であると指摘します。

バン・ノン・ワット遺跡ではかつて、陸稲(りくとう、畑で栽培される稲)の耕作が行われていました。

陸稲は、水田で栽培される水稲(すいとう)とは違い、季節雨の浸み込んだ高地の土壌に稲を植えます。

そこで出来た米粒は、周囲の森にいたセキショクヤケイの格好の餌となったでしょう。

こうして、ヤケイ(野鶏)と人との接触が次第に緊密なものとなり、家畜化への道を切り拓いたと考えられるのです。

そして、約3600年ほど前に家畜化されたニワトリが誕生したと推測されます。

その後、東南アジアから南アジア、中国、そして現在のイランやイラクへとニワトリが伝わったのは、約3000年前と見られています。

では、ヨーロッパやアフリカへは、いつ頃ニワトリが伝わったのでしょうか?

渡来初期のニワトリは「食用」でなく「崇拝」されていた

研究チームは、ユーラシア大陸西部とアフリカ北西部にある16カ所の遺跡で見つかった計23羽のニワトリの骨を調査。

その結果、これまでの予想に大きく反し、ニワトリは紀元前800年頃までヨーロッパやアフリカには渡来していなかったことが示されました。

チームの指摘によると、ニワトリの渡来は、東南アジアから南アジア、中国、中東を経て、ギリシア、エトルリア、フェニキアなどの海上交易ルートを介し、地中海全域に広まったようです。

また、地中海からスコットランド、アイルランド、スカンジナビア、アイスランドなど、北の寒冷地にニワトリが定着するには、さらに約1000年ほどかかったといいます。

「家畜ニワトリ」の誕生時期が判明! 実は驚くほど最近だった!
(画像=研究対象としたニワトリの骨が出土した主なエリア / Credit: Julia Best et al., Antiquity(2022)、『ナゾロジー』より引用)

加えて、興味深いのは、地中海やヨーロッパに伝来した初期のニワトリが、食用ではなかったという点です。

その証拠に、ニワトリの骨に屠殺された跡がなく、単独で埋葬されたり、また人と一緒に埋葬されているケースが多く見られました。

しかも、男性は雄鶏(おんどり)、女性は雌鶏(めんどり)と一緒に埋葬される傾向にあったのです。

これは、初期のニワトリが一般に食用とは見なされておらず、崇拝の対象であったり、文化的な意味を持たされていたことを示唆します。

ニワトリが食用に供されるには、伝来からさらに数百年を要したようです。

「家畜ニワトリ」の誕生時期が判明! 実は驚くほど最近だった!
(画像=(A)ニワトリの骨の量は年代ごとに増加、(B〜E)実際に見つかった骨 / Credit: Julia Best et al., Antiquity(2022)、『ナゾロジー』より引用)

研究主任の一人で、英オックスフォード大学(University of Oxford)のグレガー・ラーソン(Greger Larson)氏は、今回の成果について、「ニワトリの家畜化の時期とその場所に関するこれまでの理解が、いかに間違っていたかを証明するもの」と話します。

また、フランス国立科学研究センター(CNRS)のオフェリア・ルブラスール(Ophélie Lebrasseur)氏は、こう言います。

「これほどまでに身近で人気のある動物でありながら、ニワトリが比較的最近になって家畜化されたという事実には驚かされるばかりです。

私たちの研究は、しっかりとした骨学的比較、厳密な年代測定、およびこれらの発見をより広い文化的・環境的文脈の中に位置づけることの重要性を強調しています」


参考文献

New evidence about when, where, and how chickens were domesticated

A new origin story for domesticated chickens starts in rice fields 3,500 years ago

元論文

The biocultural origins and dispersal of domestic chickens

Redefining the timing and circumstances of the chicken’s introduction to Europe and north-west Africa


提供元・ナゾロジー

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