焼きたてのパンの匂いを嗅いでいたら、子供の頃母親とパンを焼いた思い出が蘇った。

そんな感じで匂いをトリガーに、過去の記憶が蘇った経験はないでしょうか?

しかし、いつどこで嗅いだとしてもおかしくない普通の匂いで、ある特定の記憶だけが蘇るというのはなぜなのでしょう?

匂いと記憶の関係は、私たちがどのように物事を覚えるのかという問題と密接なつながりがあります。

脳がどうやって匂いと記憶を結びつけているのか、そのメカニズムを見ていきましょう!

目次
匂いが記憶を呼び覚ますプルースト効果
匂いと脳の関係

匂いが記憶を呼び覚ますプルースト効果

20世紀のフランスの作家、マルセル・プルーストは「失われた時を求めて」という7巻のシリーズ作品を書きました。

ドラクエ11の副題もここから取ったのかな、という気がしますが、それはともかく、この作品では、主人公がお茶に浸したマドレーヌの香りから、長い間忘れていた子供時代の記憶を思い出す場面が描かれています。

この描写は、心理学者や神経生物学者を魅了したようで、「特定の香りから意図せず過去の記憶が蘇る」ことをプルースト効果と呼びます。

匂いが記憶を呼び覚ます「プルースト効果」とは? 香りは人生を豊かにしてくれる
(画像=物語の中で主人公食べた貝型のマドレーヌ。 / Credit:Wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

しかし、匂いで記憶が蘇るというのはどういったメカニズムによるものなのでしょう? 記憶障害となる病気には、その手がかりが隠されているかもしれません。

例えば、アルツハイマー病の患者は、匂いを特定することが困難になってきます。これは病状が進行するにつれて悪化します。

アルツハイマー病の特徴の1つが海馬の悪化です。

そのため科学者たちは、海馬が嗅覚と記憶に重要なのではないかと推測しました。では、そこにはどんなつながりがあるのでしょうか?

匂いと脳の関係

私たちにとっての匂いは、原因となる分子が鼻の中の嗅覚受容体と結びつくことで生まれます。

この受容体は、信号を額の後ろにある嗅球と呼ばれる部位に伝えます。

匂いが記憶を呼び覚ます「プルースト効果」とは? 香りは人生を豊かにしてくれる
(画像=脳の嗅球の位置。 / Credit:Wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

嗅球はここで得られた情報を元に、その匂いがなんであるのかを解読し識別するのです。

分析された匂いの信号は、次に扁桃体へ送られます。

扁桃体はアーモンドのような形をした器官で、幸せや悲しみ、楽しい体験など、感情的な情報を解釈する脳の領域です。

そして最後に、信号は海馬へと送られます。

海馬はタツノオトシゴのような形をした器官で、記憶を学び、形成する役割を持っています。

つまり、嗅覚は感情や記憶を司る扁桃体と海馬を刺激するのです。

このことにより、匂いの解釈は非常に主観的で、個々人の経験に依存したものになります。

その人が持つ記憶によって、匂いの感じ方や解釈が異なってくるのです。