最近、バーモンド大学の冷凍庫で非常に興味深いものが発見されました。

それは1966年に、グリーンランドの1.4kmもある氷床を貫いて、その下にある堆積物を20km近くもくり抜いた地質試料(コア)です。

何十年も前に行方不明になっていたサンプルが、偶然発見されたというのも驚きですが、さらにこの試料を分析すると、まるで昨日まで生きていたかのような植物の化石が次々と見つかったのです。

3月15日に科学雑誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に発表された新しい研究は、今回の発見から、グリーンランドが過去100万年以内に、氷の無い植物の茂った土地だったという証拠を得たと報告しています。

これはグリーンランドが想像以上に気候変動に脆弱であることを示す重要な発見ですが、それ以外にも長い間行方不明だった氷床コアにも、深いドラマがあるようです。

目次
米陸軍の偽装研究施設
まるで生きているかのような植物の化石

米陸軍の偽装研究施設

グリーンランドの氷床から「生きているような」植物の化石が次々見つかる
(画像=1966年にソ連の局地科学ステーションが掘削した、グリーンランドの地質コア。 / Credit:UVM、『ナゾロジー』より引用)

1960年代初頭、米陸軍はグリーンランドの北西部に、キャンプ・センチュリーという局地科学ステーションを建設しました。

200人近く居住可能な施設で、映画館や温泉も備え、局地での研究活動を支援するというのが、その計画の内容でした。

しかし、この科学研究所、真の姿は偽装された冷戦時代の軍事基地だったのです。

この基地が請け負っていた任務は、「プロジェクト・アイスワーム」と呼ばれる軍事作戦で、その内容はソビエト連邦に近いグリーンランドの氷床にトンネルを掘り、600発もの核ミサイルを隠すというものでした。

これはグリーンランドを管轄するデンマーク政府さえ気づいていない事実でした。

ところが、盤石と思われたグリーンランドの氷床は、実はかなり速く動いているとわかり、ミサイルを隠すトンネルは作ることができなかったのです。

そのため、キャンプ・センチュリーは結局1967年に閉鎖されます。

しかし、偽装とはいえ、ここに所属していた研究チームは、実際きちんと研究活動を行っていました。

彼らは、1966年にグリーンランドの厚さ1.4kmの氷床の下にある地面(堆積物)を、約20kmも筒状に掘削してボーリングコア(地質試料)を採取していたのです。

この貴重な地質試料は、その後、米国ニューハンプシャーの陸軍研究所の冷凍庫に送られて保管されました。

そして、その後1970年代にバッファロー大学の冷凍庫へと移送されます。

さらにその後、1990年代になってデンマークのコペンハーゲン大学の冷凍庫へと移されました。

もうこのときには、担当者たちはこのサンプルが何なのかよくわからないまま、ラベルを付けて保管していました。

最近、時を経てコペンハーゲン大学は、これらの膨大な氷床コアのコレクションを新しい冷凍庫に移す作業を開始しました。

そしてその作業にあたっていた研究者が、2017年にこの貴重なグリーンランドの地下深くのサンプルを再発見したのです。

彼は、この古い試料が宝の山だということに気づきます。そして、現代の時代測定技術を使えば、過去にはわからなかったさまざまなことが解析できるだろうと考え、バーモンド大学、コロンビア大学などの科学者を集めた研究チームを結成したのです。

実際、このコアには重要な情報が眠っていました。

まるで生きているかのような植物の化石

この堆積物を顕微鏡で見た研究者たちは驚きました。

そこには、まるで昨日まで生きていたかのように見える植物の葉や枝などの破片が含まれていたのです。

グリーンランドの氷床から「生きているような」植物の化石が次々見つかる
(画像=一見普通の木に見えるが、これは何十万年も前の木の化石。 / Credit:NSF UVM Community Cosmogenic Laboratory(You Tube)、『ナゾロジー』より引用)

これはまぎれもない化石ですが、たしかに拾ってきたばかりの小枝のように見えます。

通常氷床の経路にあるものは、粉砕されてしまって残りません。しかし、この試料は植物の繊維構造を完全に保存していました。

これはグリーンランドに隠されたタイムカプセルのようなものだったのです。

石英に形成される宇宙線があたった痕跡を分析した結果、これらは過去100万年以内のものだということがわかりました。

つまり、ほんの数十万年前までグリーンランドには厚い氷床はなく、草木の茂る大地だったのです。

グリーンランドの氷床から「生きているような」植物の化石が次々見つかる
(画像=別の枝の化石。こちらもまるで昨日まで生きていたかのような状態だ。 / Credit:NSF UVM Community Cosmogenic Laboratory(You Tube)、『ナゾロジー』より引用)

これは過去温暖な時代だった間氷期でも、グリーンランドは凍りついていたという考え方を覆すものです。

グリーンランドの氷床は、地球の海面を約6m上昇させるだけの水を氷として保存していると言われています。

これが、温暖な時期には割と簡単に溶けてなくなってしまうというのは、温暖な時代への気候変動に直面している我々にとっては恐ろしい事実です。

研究者はこれは今後50年間で、グリーンランドの氷が失われる可能性のある緊急の問題だと語っています。

かつて頓挫軍事作戦の偽装で採取された研究資料は、驚くべき現代への警鐘となったようです。


参考文献

UVM scientists stunned to discover plants beneath mile-deep Greenland ice(University of Vermont)

元論文

A multimillion-year-old record of Greenland vegetation and glacial history preserved in sediment beneath 1.4 km of ice at Camp Century


提供元・ナゾロジー

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