石炭などの資源は有限かつ環境汚染の問題があるため、よりクリーンで持続性のある太陽光が注目されてきました。

そんな中、イギリス・ヨーク大学の太陽光発電研究者であるクリスチャン・S・シュスター氏ら研究チームは、10月8日付けで科学誌『Optica』に、新しいソーラーパネルの表面構造を発表しました。

彼らによると、ソーラーパネルの表面を単純な模様にするだけで、光の吸収量が2倍以上になるとのこと。

目次
太陽光発電の効率を上げるには?
シンプルな模様にするだけで、光の吸収率が2倍以上になる

太陽光発電の効率を上げるには?

ソーラーパネルの表面を「単純な模様」にするだけで、光の吸収量が2倍になる! より発電効率の良いモデル生産へ前進
(画像=ソーラーパネルの普及には効率上昇が不可欠 / Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

太陽光の利用は、資源とエネルギー、環境の問題を解決するための重要な手段です。そのため、より効率的な太陽光発電の研究が進められてきました。

ちなみにこの効率には、ソーラーパネルの薄さを追求することも含まれます。ソーラーパネルに必要なシリコン製造には多くのエネルギーを消費するからです。

つまりより薄く、より軽く、より柔軟で効率的なソーラーパネルが求められてきたのです。

こうした背景にあって、科学者たちは、夜間でも発電できる「アンチソーラーパネル」や「藻類を利用した集光技術」、さらには「透明なソーラーパネル」などを開発してきました。

また多くの研究機関はソーラーパネルの表面構造に調整を加えることで、太陽光の吸収率を上げようともしてきました。

ソーラーパネルの表面を「単純な模様」にするだけで、光の吸収量が2倍になる! より発電効率の良いモデル生産へ前進
(画像=表面構造で吸収率を上げる / Credit:京セラソーラーFC、『ナゾロジー』より 引用)

以前から採用されてきた方法に、「ソーラーパネルの表面構造に凹凸層をつくる」というものがあります。凹凸によって光の反射をコントロールし、光の吸収率を上げるのです。

この表面構造のバラエティに注目したのが、シュスター氏らの研究チームです。彼らはいくつかの凹凸模様の集光率を調査し、模様によって太陽光発電の効率が上昇するか確かめました。

シンプルな模様にするだけで、光の吸収率が2倍以上になる

研究チームはわずか1μmの厚さの結晶シリコンによる6種類のソーラーパネルをシミュレートし、それぞれの性能を比較しました。

ソーラーパネルの表面を「単純な模様」にするだけで、光の吸収量が2倍になる! より発電効率の良いモデル生産へ前進
(画像=テストされたソーラーパネル模様 / Credit:Christian S. Schuster、『ナゾロジー』より 引用)

用意したのは、次の異なった模様構造です。

(a)grating lines:いわゆる格子模様。これまでにも作られており、わずかな効率上昇しか得られていませんでした。
(b)crossed lines:ラインを交差させたような模様。
(c)checkerboard:格子模様を正方形に切り取り、交互に並べた模様。
(d)pentagon:格子模様を五角形に切り取り、並べた模様。
(e)farrago:「寄せ集め・ごた混ぜ」という名前の通り、かなり複雑に格子模様を切り取り並べたもの。
(f)QR supercell:QRコードのように小さなドットが集まった模様。
テストの結果、(c)checkerboardが、他のセルに比べてより多くの電流を発生させると判明。模様の無い従来のソーラーパネルと比較して発生電流が125%も増加したのです。

ソーラーパネルの表面を「単純な模様」にするだけで、光の吸収量が2倍になる! より発電効率の良いモデル生産へ前進
(画像=checkerboard模様は光の吸収率を2倍以上にする / Credit:Christian S. Schuster、『ナゾロジー』より 引用)

ちなみに、このcheckerboard模様では、凹部でより多くの光を吸収するとのこと。

これまでにも複雑で洗練されたデザインのソーラーパネルが開発されてきましたが、今回の研究によって表面構造を単純な模様にするだけで、それらに匹敵する光吸収率が得られると判明したのです。

しかもこの模様は非常に単純なため、製造が容易であり、他の複雑なソーラーパネルパターンよりも頑丈かもしれないとのこと。

ソーラーパネルの表面を「単純な模様」にするだけで、光の吸収量が2倍になる! より発電効率の良いモデル生産へ前進
(画像=新しいソーラーパネルの構造。1μmの厚さ / Credit:Christian S. Schuster、『ナゾロジー』より 引用)

さらに研究チームはcheckerboard模様型の薄いソーラーパネルを製造するなら、セル製造に使用する資源の費用対効果が10倍になるとも考えています。

シュスター氏によると、「原理的には、同じ量の材料で、10倍の太陽発電が可能になります」とのこと。

この非常に効率的な新しいデザインは太陽光発電の普及を推し進めるものとなり、将来的にはエネルギー問題や環境問題の解決に大きく役立っていくことでしょう。

提供元・ナゾロジー

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功