中国の科学研究チームはこのほど、約1億2500万年前の恐竜の化石中から、精巧に保存された軟骨細胞を単離し、そこに含まれる生体分子の残骸と、クロマチン(細胞内にあるDNAとタンパク質の複合体)の抽出に成功したと発表しました。

映画のように、恐竜をこの世に復活させるにはDNAが必要です。

今回の結果は、そんな人類の夢を実現させるための大きな一歩となるかもしれません。

研究は、中国科学アカデミーの脊椎動物古生物学・古人類学研究所(IVPP)および山東省・天宇自然博物館(STM)により、9月24日付けで学術誌『Communications Biology』に掲載されました。

目次
細胞から「クロマチン」の染色に成功か
「恐竜の蘇り」は可能?

細胞から「クロマチン」の染色に成功か

本研究では、中国東北部の遼寧(りょうねい)省にある地層で採取された「カウディプテリクス(Caudipteryx、尾に羽毛を持つもの)」の化石を調査対象としました。

カウディプテリクスは、白亜紀前期(約1億4400万〜9900万年前)に存在した羽毛恐竜で、全長は約1メートル。2足歩行で、長い尾羽と羽毛の生えた前肢を持ちますが、飛ぶことはできませんでした。

また、この場所は「熱河層群(Jehol Group)」と呼ばれ、地層の厚さは約1600〜2600メートル、上部が約1億1000万年前で、下部が約1億3000万年前に生成されたものです。

採取された化石は、約1億2500万年前のものと推定されています。

恐竜の化石から「DNAとタンパク質の複合体」の染色に成功か
(画像=カウディプテリクスの復元イメージ / Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

研究チームは、右大腿骨の化石から軟骨細胞の一部を取り出して脱灰し、顕微鏡や化学的手法を用いて分析しました。

(脱灰:生物の硬い組織からカルシウム成分を溶出させて軟化し、実験や調査を容易にするための手法)

その結果、カウディプテリクスの死後、すべての細胞が珪化によってミネラル化していたことが判明しました。珪化作用が、細胞の優れた保存を可能にしたと考えられます。

(珪化:生物の遺体が地中の珪酸の浸透で珪酸質に変わること)

さらにチームは、抽出されたいくつかの細胞を「ヘマトキシリン」という化学物質で染色しました。

この紫色の薬品は、細胞の核に結合することで知られます。

サンプルを染色したところ、1つの細胞に紫色の核と、それよりも濃い紫色の糸のようなものが見つかりました。

これは、1億2500万年前の恐竜の細胞核が、生前の有機分子やクロマチンの糸を残しているほど保存状態が良いことを示唆します。

恐竜の化石から「DNAとタンパク質の複合体」の染色に成功か
(画像=紫色に染色された軟骨細胞 / Credit: Xiaoting Zheng et al., Communications Biology(2021)、『ナゾロジー』より引用)

クロマチンとは、本来、「細胞核内の染色されやすい物質」を指す言葉で、日本語では「染色質」と訳されます。

これと一緒によく耳にする「染色体(クロモソーム)」は、ある種の細胞分裂において、クロマチンが構造変換して生じるものです。

地球上のすべての生物の細胞内にあるクロマチンは、DNA分子が緊密に結合したものであり、遺伝子の発現や複製、修復にかかわっているとされます。

本研究の成果により軟骨細胞では核の化石化が起こりやすいことが示され、従来よりも長い時間でのDNA保存を理解する足がかりになるかもしれません。

研究を進めるには、今回使用した染色法よりもはるかに洗練された化学的手法を用いる必要があります。

「恐竜の蘇り」は可能?

恐竜の化石から「DNAとタンパク質の複合体」の染色に成功か
(画像=カウディプテリクスの死亡直後のイメージ / Credit: Image by ZHENG Qiuyang(scitechdaily) – Potential Remnants of Original Dinosaur DNA Discovered in Exquisitely Preserved Dinosaur Cells(2021)、『ナゾロジー』より引用)

絶滅した生物を蘇らせるには、保存状態の良いDNAが必須です。

映画『ジュラシック・パーク』では、恐竜の血を吸った蚊からティラノサウルスのDNAを抽出する手法をとりましたが、これは現実的ではありません。

DNA分子は長い時間の中で壊れてしまうもので、近年の研究では、化石中に保存されても、700万年前後で劣化し、最終的には崩壊すると指摘されています。

恐竜が絶滅したのは約6600万年前なので、どう見積もっても状態の良いDNAは手に入れようがないのです。

実際に、これまでのあらゆる研究で、恐竜のDNAの塩基配列の決定に成功した例はありません。

古生物の分野では、化石中に古代のDNAが保存されていることを確かめるために、塩基配列決定(シークエンシング)が用いられます。

これまでのところ、シークエンシングは約100万年前までの化石にしか適応できず、恐竜の素材には使えていません。

恐竜はあまりにも古く、DNAが残っていないと考えられるからです。

しかし、今回の研究が進めば、恐竜の軟骨細胞の分析により、長い時間でのDNAの保存について新たな知見が見つかるかもしれません。

もっとデータを集めなければならないとは言え、1億2500万年前の恐竜細胞が完全に「石化」しておらず、有機分子やクロマチンと思しき残骸が染色できたのは非常に興味深い兆候です。

研究チームは今後、これらの分子を慎重に分析し、さらなる生物学的な情報を調べる予定です。

その結果次第では、恐竜の蘇りも現実味を帯びてくるかもしれません。

【編集注 2021.09.29 15:25】
記事内容に一部誤りがあったため、修正して再送しております。
大変申し訳ございませんでした。


参考文献

Potential Remnants of Original Dinosaur DNA Discovered in Exquisitely Preserved Dinosaur Cells

元論文

Nuclear preservation in the cartilage of the Jehol dinosaur Caudipteryx


提供元・ナゾロジー

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