近年、インターネット通信の高速化がますます求められています。

そんな中、日本の情報通信研究機構(略称:NICT)が4コア光ファイバーによって、毎秒1ペタビット(Pb)の伝送実験に成功しました。

この記録は世界で初めてのことです。

4コア光ファイバーは、従来の光ファイバーケーブルと同じ外径なため、現在の製造設備やインフラをそのまま利用でき、早期実用化が期待されます。

今回の成果は、レーザー・エレクトロオプティクスに関する国際会議(CLEO2022)にて高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文に採択されています。

目次
既存の設備とシステムのまま第5世代通信を越えるには?
「第三波長帯の広帯域化」で1Pbの通信速度を実現

既存の設備とシステムのまま第5世代通信を越えるには?

現在は、「高速・大容量」「低遅延」「多数同時接続」を特徴とした第5世代移動通信システム(5G)の世代です。

そして将来的には、5Gの要素を強化し、「超低消費電力」「安全性」「拡張性」などの要素を加えた「Beyond 5G」世代が到来すると考えらえています。

日本では総務省が中心となり、2030年の導入を目標としています。

日本が「4コア光ファイバー」で毎秒1ペタビットの伝送に世界で初めて成功!
(画像=Beyond 5Gに求められること / Credit:総務省(PDF)、『ナゾロジー』より引用)

Beyond 5Gの通信速度は5Gの10~100倍を目標としており、そのためには伝送の革新的な高速化が必要となるでしょう。

光ファイバーを使った通信速度を向上させるには、現在2つの方法があります。

1つは光の通り道となるコアを増やして通信量を増やす方法。

もう1つが、同じ通路を使う光の種類(モード)を増やすことで通信量を増やす方法です。

コアは光の通り道自体を増やす方法なので、技術的には実現しやすいものですが、コアを増やせば当然ケーブルの太さがどんどん増してしまいます。

日本が「4コア光ファイバー」で毎秒1ペタビットの伝送に世界で初めて成功!
(画像=マルチコア光ファイバーの概要 / Credit: ファイバーラボ株式会社、『ナゾロジー』より引用)

モードは屈折率などが異なる光を同じ通路で一緒に送るので、データを受信する側が解析して分離する必要があり、処理が複雑になったり、長距離では光が混ざってしまい損失が大きくなるなどいくつかの問題や制限があります。

日本が「4コア光ファイバー」で毎秒1ペタビットの伝送に世界で初めて成功!
(画像=マルチモード光ファイバーの概要 / Credit: ファイバーラボ株式会社、『ナゾロジー』より引用)

どちらも通信量を増やす重要な技術ですが、新しい高速伝送ケーブルが既存のケーブルと直径が変わってしまったりすれば、世界中で定着した光ファイバーケーブル用の製造設備や、すでに敷設済みの通信インフラをすべて変更する必要があるため、実現は難しいものとなってしまうのです。

日本が「4コア光ファイバー」で毎秒1ペタビットの伝送に世界で初めて成功!
(画像=標準外径光ファイバのイメージ図 / Credit:NICT_世界初、4コア光ファイバで毎秒1ペタビット伝送に成功~広帯域波長多重技術により伝送容量を大幅に拡大~(2022)、『ナゾロジー』より引用)

2020年12月には、「15モード光ファイバー」が開発され、こちらは1Pbの伝送に成功しましたが、複雑な処理を必要とするため、世の中で実用化するにはかなり長期的計画になりそうでした。

そこでNICTは、既存の製造設備や技術を流用できる「標準外径のマルチコア光ファイバー」を開発することで、早期実用化を目指すことにしました。

2020年3月には、ケーブルサイズを変えずにコア(光の通り道)を4つに増やした「4コア光ファイバー」を用いることで、毎秒0.61Pbを実現。

日本が「4コア光ファイバー」で毎秒1ペタビットの伝送に世界で初めて成功!
(画像=これまでNICTが標準外径光ファイバを用いて実証した伝送容量 / Credit:NICT_世界初、4コア光ファイバで毎秒1ペタビット伝送に成功~広帯域波長多重技術により伝送容量を大幅に拡大~(2022)、『ナゾロジー』より引用)

さらにこの技術に改良を加え、2021年6月には4コア光ファイバーを用いて、毎秒0.3Pbかつ3001kmの「大容量・長距離伝送」に成功しました。

そうしてとうとう、今回NICTは、4コア光ファイバーをさらに高速化し、1Pbの大台に乗る通信量の世界新記録を樹立したのです。

「第三波長帯の広帯域化」で1Pbの通信速度を実現

NICTが採用した4コア光ファイバーでは、4つのコアを用いて信号を複数の波長に分解して同時に伝送することで、最大通信速度を向上させています。

また複数の波長帯域を用いることで、さらに多くのデータ伝送を可能にしています。

日本が「4コア光ファイバー」で毎秒1ペタビットの伝送に世界で初めて成功!
(画像=3つの波長帯を利用 / Credit:NICT_世界初、4コア光ファイバで毎秒1ペタビット伝送に成功~広帯域波長多重技術により伝送容量を大幅に拡大~(2022)、『ナゾロジー』より引用)

商用の帯域(C帯とL帯)に加えて、一般には商用化されていていない第三の波長帯「S帯」を活用しているのです。

2020年3月に秒速0.61Pbを達成した際にも、S帯の一部が利用されていました。

日本が「4コア光ファイバー」で毎秒1ペタビットの伝送に世界で初めて成功!
(画像=S帯を拡張 / Credit:NICT_世界初、4コア光ファイバで毎秒1ペタビット伝送に成功~広帯域波長多重技術により伝送容量を大幅に拡大~(2022)、『ナゾロジー』より引用)

そして今回の実験では、このS帯を161波長から335波長へと広帯域化し、他2つの帯域も少しずつ拡張。

これにより合計が561波長から801波長まで広がりました。

日本が「4コア光ファイバー」で毎秒1ペタビットの伝送に世界で初めて成功!
(画像=今回の成果と過去のNICTの成果との比較 / Credit:NICT_世界初、4コア光ファイバで毎秒1ペタビット伝送に成功~広帯域波長多重技術により伝送容量を大幅に拡大~(2022)、『ナゾロジー』より引用)

また、全ての周波数帯域で情報密度の高い変調方式(256QAM)を採用しています。

その結果、世界で初めて、51.7kmの距離を毎秒1.02Pbで伝送することに成功しました。

日本が「4コア光ファイバー」で毎秒1ペタビットの伝送に世界で初めて成功!
(画像=これまでNICTが伝送実験を実施した主な標準外径光ファイバとその実験結果 / Credit:NICT_世界初、4コア光ファイバで毎秒1ペタビット伝送に成功~広帯域波長多重技術により伝送容量を大幅に拡大~(2022)、『ナゾロジー』より引用)

しかもこの新しい光ファイバーは、既存のインフラ、製造設備を活用できるため、早期実用化が可能だと考えられます。

Beyond 5Gの土台となる通信システムを早い段階で実現させることにもつながるでしょう。


参考文献

世界初、4コア光ファイバで毎秒1ペタビット伝送に成功 ~広帯域波長多重技術により伝送容量を大幅に拡大~


提供元・ナゾロジー

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功