ドアノブを握ろうとして、バチっと静電気が飛んで痛い思いをした経験は誰にでもあるでしょう。
この迷惑な静電気を事前に予測し回避する方法はないのでしょうか?
産業技術総合研究所(略称:産総研)に所属する菊永 和也(きくなが かずや)氏ら研究チームは、静電気の発生を発光で可視化する技術を開発。
この研究は肉眼で確認できるため、静電気トラブルを回避するのに役立つ可能性があります。
研究の詳細は、2022年6月2日付の科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。
静電気の発生を予測するには?
通常、物質はプラスとマイナスの電荷をバランスよくもっています。
しかし物質同士が当たったり擦れたりすると、マイナスの電荷が片方に移動し、プラスの電荷とマイナスの電荷の状態に偏りが生じます。
私たちは、このバランスが崩れた状態のことを「静電気を帯びる」と呼んでいます。
人間はプラスに帯電しやすいため、体が他の物質に触れたり、擦り合ったりしているうちに、プラスの電荷を帯びてしまいます。
この状態で金属などの電気を通しやすい物質に手を近づくと、金属の中の電子(マイナスの電荷)が手に引き寄せられます。
そして手が触れた(極度に近づいた)瞬間、マイナスの電荷がプラスに帯電した手に一気に流れ込み(放電という)、人間はバチっという音ともに痛みを感じるのです。
もちろん、この現象は人間以外にも生じます。
人間であれば痛みを感じるだけですが、ドローンやロボットなどの精密機械では、静電気の発生により誤作動が生じることもあるのです。
そのため、静電気がいつ、どこで発生するのか把握する「静電気センサー」が必要とされてきました。
しかし従来の静電気センサーは、対象物の形状や環境によっては正確に測定できません。
そこでチームは、どんな状況でも正確に静電気を測定できる技術を開発することにしました。
静電気の分布を発光で知らせる新技術
今回研究チームは、「静電気で発光する材料」によって、静電気の測定と予測を可能にしたいと考えました。
ところが、静電気で発光する物質は未だ見つかっていません。
そこでチームは、電荷の移動で発光する既知物質を系統的に調べていくことにしました。
その結果、セラミックス微粒子「SrAl2O4:Eu2+」が空気中のイオンや帯電粒子などに反応して発光すると判明。
しかもこの微粒子は粒径が数µmであり、電源を必要とせずに、静電気に由来する電荷を検知して光として出力できます。
これはつまり、世界最小の静電気センサーとも言えるのです。
この微粒子を対象物に塗布したり、微粒子を添加したフィルムを巻き付けたりするなら、静電気の発生する兆候を肉眼で確認できるでしょう。
実際に動画では、セラミックス微粒子を添加したフィルムに電荷を放射していますが、帯電領域をはっきりと確認できます。
また静電気発生器にセラミックス粒子を塗布することで、指を近づけた際に生じる目に見えない放電も可視化することに成功しました。
セラミックス粒子から作られた材料は、材料が帯電するときと放電するときの両方で発光するのです。
この新しい技術を利用するなら、いつ、どこで発生するか分からない静電気をデータとして蓄積し、トラブル回避に役立てられるでしょう。
今後チームは、この新しい材料を利用して、静電気発生のモニタリングと静電気対策の実証実験を行う予定です。
参考文献
目に見えない静電気分布を発光させることにより直接的な可視化に成功
元論文
Demonstration of static electricity induced luminescence
提供元・ナゾロジー
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