2011年、中国はGDPで日本を抜き、世界第2位の経済大国の地位を手にしました。
その後も中国経済と中国企業の発展は目覚ましく、スマートフォンやSNSの普及とともにAlibaba(阿里巴巴)、Baidu(百度)、Tencent(騰訊)などの大企業が台頭し、インターネット規制の内側で独特なサービスを展開しています。
一方、ここ数年における中国企業の世界進出も見放せません。
例えば、携帯電話ブランドとして2000年代に人気を博したMotorolaやBlackBerryは、それぞれ2011年と2016年に中国企業の傘下に入りました。現在ではMotorolaはLenovo(聯想集団)、BlackBerryはTCLのブランドとなっています。
このような中国企業による海外企業買収の波は、既に日本にも押し寄せています。
目次
中国資本によって買収された日本企業の一覧
日本の二大PCブランドを手にしたLenovo
中国資本によって買収された日本企業の一覧
中国の大手IT企業は数々の日本の企業を買収しました。その中には私たちもかつてよく目にしていたような有名ブランドや、一時代を支えたといえるような名だたるメーカーの名が揃っています。
今回、編集部が独自に「中国資本によって買収された日本企業」を調査した結果が以下の一覧です。
中国企業の名称 | 中国企業の業種 | 買収時期 | 買収された日本企業の名称 | 買収された日本企業の業種 |
Lenovo(聯想集団) | PC製造 | 2011年 | NECパーソナルプロダクツ(PC部門) | PC製造 |
Lenovo(聯想集団) | PC製造 | 2018年 | 富士通クライアントコンピューティング | PC製造 |
Haier(海爾集団) | 家電製造 | 2011年 | 三洋アクア | 家電製造 |
Midea(美的集団) | 家電製造 | 2016年 | 東芝ライフスタイル | 家電製造 |
善美集団 | 投資ファンド | 1991年 | 山水電気 | オーディオ機器製造 |
善美集団 | 投資ファンド | 1994年 | 赤井電機 | オーディオ機器製造 |
善美集団 | 投資ファンド | 1997年 | ナカミチ | オーディオ機器製造 |
Baring Private Equity Asia | 投資ファンド | 2019年 | パイオニア | オーディオ機器製造 |
山東如意集団 | 繊維製造 | 2010年 | レナウン | 衣料品製造 |
蘇寧電器 | 家電量販店 | 2009年 | ラオックス | 家電量販店 |
上海電気集団 | 産業機械製造 | 2004年 | 池貝 | 産業機械製造 |
BYD(比亜迪汽車) | 自動車製造 | 2010年 | オギハラ(金型工場) | 自動車製造 |
上海奔騰企業 | 家電製造 | 2010年 | 本間ゴルフ | ゴルフ用具製造 |
Key Safety Systems | 自動車用安全部品製造 | 2018年 | タカタ | 自動車用安全部品製 |
日本の二大PCブランドを手にしたLenovo
上記の一覧のように、中国企業による海外企業買収の波は、既に日本にも押し寄せています。
例えば、PCブランドとして有名なLAVIE(NEC)やFMV(富士通)は、現在ではLenovo(聯想集団)傘下のブランドとなっています。
Lenovoによる日本PCブランドの買収は、2011年に始まりました。
この年、LenovoはNECパーソナルプロダクツのPC部門を買収し、LenovoとNECの合弁会社であるLenovo NEC Holdings B.Vの100%子会社となるNECパーソナルコンピュータを設立しました。
これにより、NECのPCブランドであったLAVIE、Mate、VersaProはLenovo傘下のブランドとなりました。
その後、2016年には富士通のPC部門である富士通クライアントコンピューティングの筆頭株主となり、富士通のPCブランドであったFMVを手に入れています。
なお、LAVIEやFMVと同じく日本のPCブランドであったdynabookは、台湾Foxconn(鴻海科技)傘下のSHARPにより2018年に買収されており、現在では台湾企業のPCブランドとなっています。
IBM ThinkPadも同じくLenovoブランドに
Lenovo(聯想集団)は、1984年に設立された中国のコンピューター企業です。
1980年代、まだ漢字を扱えなかったPCに漢字処理機能を追加する「漢字カード」を中国で発売し、人気を博しました。その後PC製造にも乗り出し、1996年には中国PC市場の最大手となっています。
2004年にはIBMからPC部門を買収し、同社のブランド「ThinkPad」を手にしました。ThinkPadは1992年から続くIBMのPCブランドで、黒一色でまとめられた外装や独自のキーボード、トラックポイントと呼ばれる独自のポインティングデバイスを愛するファンが数多く存在します。
IBMは1984年に「PC/AT」を発売し、今日のPCの礎を築いたともいえる企業であったため、PC部門の買収はPC業界に大きな衝撃を与えました。
この買収により「IBM ThinkPad」は「Lenovo ThinkPad」となったものの、ThinkPadの人気は衰えることなく今日まで続いています。
家電メーカーも次々と中国資本に
中国企業の傘下となった日本企業は、PC業界のみに留まりません。
かつて日本の家電製品は高品質の象徴として海外諸国でも人気を持っていましたが、現在では三洋と東芝は中国企業に、SHARPは台湾企業に買収されています。
三洋の洗濯機と冷蔵庫はHaier(海爾集団)が買収
Haier(海爾集団)は、1984年に冷蔵庫メーカーとして設立されました。その後家電の製造にも乗り出し、2020年現在では世界第3位の白物家電シェアを持っています。
一方の三洋は、松下電器(現・パナソニック)を設立した松下幸之助氏の義弟である井植歳男氏により1947年に設立されました。その後は家電メーカーとして松下電器ともシェアを争うほどの規模に成長しましたが、製品事故や不祥事が続き経営困難に陥り、2011年にはパナソニックに買収されることとなりました。
この時、三洋の白物家電事業を務めていた三洋アクアはパナソニックの事業と重複するため、代わりにHaier(海爾集団)が約100億円で買収しました。
現在ではアクア株式会社として、冷蔵庫や洗濯機を展開しています。
パナソニックとHaier(海爾集団)による買収に伴い、日本から「SANYO」ブランドは消えてしまいましたが、現在でもインドではパナソニックにより「SANYO」ブランドが継続して用いられており、台湾では現地邦人の台湾三洋が「SANLUX」ブランドを用いています。
東芝を買収した家電業界大手のMidea(美的集団)
Midea(美的集団)は、1968年にプラスチック加工メーカーとして設立されました。 その後、1980年に扇風機を手がけたことをきっかけに、家電の製造に乗り出します。冷蔵庫、洗濯機、炊飯器などの白物家電を多数製造しており、2020年現在では世界第6位の白物家電シェアを持っています。
一方の東芝は、1893年に設立された芝浦製作所と1899年に設立された東京電気の流れを受け継ぎ、1939年に設立されました。今日に至るまで国産初の扇風機、アイロン、洗濯機、冷蔵庫、掃除機、炊飯器など、数多くの国産家電を生み出しました。
しかし、家電業界における中国企業や韓国企業の伴い、東芝の家電部門は長く赤字経営が続いていました。そして2016年、遂に東芝の家電部門である東芝ライフスタイルは株式の約80%を537億円でMidea(美的集団)に移管し、Midea傘下の企業となりました。
山水電気、レナウン、ラオックス…他にもある中国企業の買収例
ここまで、東芝と富士通のPC部門、東芝と三洋の白物家電部門がそれぞれ中国企業に買収された経緯について紹介しました。
中国企業による日本企業の買収はここまで紹介した4件のみに留まらず、オーディオ関連企業や衣料品企業、家電量販店なども続々と中国資本の傘下に入っています。
山水電気、パイオニア、赤井電機、ナカミチは全て中国資本傘下に
山水電気とパイオニアは、1980年代に巻き起こったオーディオブームの際に御三家の一角を占めるといわれたほど、多くのファンを抱えたオーディオメーカーでした。
しかし、山水電気は1980年代の後半に経営が悪化し、1991年には香港の投資ファンドである善美集団の傘下企業となります。
その後、1999年には善美集団も倒産し、山水電気は同じく香港の投資ファンドである嘉域集団に引き継がれました。それもむなしく、2011年には嘉域集団までもが倒産し、山水電気は2012年に民事再生法の適用を申請したのち、2018年には法人格が消滅しています。
1980年代の栄光とは対極的な結末をたどった山水電気ですが、台湾では現地企業の佶特国際がライセンスを取得しており、今日に至るまでSANSUIブランドで独自の製品を発売しています。
一方のパイオニアは2019年に約1,020億円の買収を経て、香港の投資ファンドであるBPEA(Baring Private Equity Asia)傘下企業となりました。
また、同じく1980年代にオーディオメーカーとして名を馳せた赤井電機やナカミチは、1994年と1997年に山水電気と同じく香港の善美集団に買収されており、同社の倒産に伴い赤井電機は2000年、ナカミチは2002年にそれぞれ民事再生法の適用を申請しています。
レナウンは山東如意集団、ラオックスは蘇寧電器が買収
1902年に創業した女性向け衣料品メーカーのレナウンは、1960年代に「レナウン娘」や「イエイエ」などのテレビCMで人気を博し、バブル期には衣料品メーカー最大の売上を抱えるまでに成長しました。
しかし、バブル崩壊と共にバブル期の過剰な設備投資が負担となり、さまざまな方法で経営立て直しを試みたものの、2010年には中国の繊維メーカーである山東如意集団が約47億円でレナウンの筆頭株主となり、その後2013年には同社の連結子会社となりました。
また、家電量販店であったラオックスは、2000年代初頭には年間2,000億円を売り上げる大企業に成長したものの、既存の大型家電量販店に打ち勝つことができず、積極的に展開していた支店も不調に終わったため、経営不振に陥りました。
その後、2009年には中国最大手の家電量販店である蘇寧電器が約8億円でラオックスを買収し、ラオックスは家電量販店事業から免税店事業に事業主体を切り替えました。
2019年までは訪日中国人をはじめとする多くの外国人観光客が訪れる免税店として利益を上げていたものの、2020年に入ってからは新型コロナウイルスの流行に伴い、経営は大きな打撃を受けているようです。
中国企業に買収されることで得た安定と、その代償
ここまで紹介した企業のほかにも、産業機械製造の池貝、自動車部品製造のオギハラの金型工場、ゴルフ用具製造の本間ゴルフ、自動車用安全部品製造のタカタなど、中国企業による日本企業の買収は相次いでいます。
多くの企業は中国資本の傘下となることで経営危機を脱し、例えばNECや富士通などはLenovoの培ってきた技術とともに新しいPC業界を切り開いています。このように、企業にとって最も重要な金銭面の心配がなくなるのは、中国企業に買収される最大のメリットだといえるでしょう。
一方、中国企業に買収されることは、企業の操縦を中国企業に渡すことを意味します。そのため、従来の顧客や日本社会そのものの利益となる経営方針ではなくなる可能性もあり、実際にラオックスでは中国企業が中国人顧客を相手にサービスを提供するという構図が見られています。
中国の経済規模は拡大を続けており、今後も中国企業による買収の流れは続くものと思われます。中国企業による買収がその企業にどう影響するか見極めることは、業界全体の将来像を予測する際にも役立つでしょう。
文・訪日ラボ編集部/提供元・訪日ラボ
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