世界の気候はますます不安定になっており、今後、農作物を生産できる地域は減少するかもしれません。

では、厳しい気候に影響されない新しい栽培法はあるのでしょうか?

イタリアを拠点とする「ネモズガーデン」は、水中で作物を育てる「水中温室」を開発し、実際にイタリアの沖合で果物と野菜を生産しています。

水中ならではの安定した温度により、現時点で100種類以上の作物を育てるに成功しています。

目次

  1. 海底ドームで野菜や果物を育てる「ネモズガーデン」

海底ドームで野菜や果物を育てる「ネモズガーデン」

気候変動に対抗した幻想的な新しい農業「水中温室」
(画像=海底に設置されたドーム / Credit:Nemo’s Garden、『ナゾロジー』より引用)

イタリア・ノーリ付近の海底には、6つの透明なドームが沈められており、その中では数々の植物が栽培されています。

これは「ネモズガーデン」と呼ばれる世界で唯一の「水中温室」プロジェクトです。

食物生産の新しい可能性を見いだすため、海中での温室栽培にチャレンジしているのです。

では、どのように水中温室を成立させているのでしょうか?

まず各ドーム内には約2万リットルの空気が保持されています。

気候変動に対抗した幻想的な新しい農業「水中温室」
(画像=太陽の光がドーム内に届く / Credit:Nemo’s Garden、『ナゾロジー』より引用)

そして写真から分かる通り、海底にも太陽光が届いています。

太陽光が植物に光を供給し、ドーム内を温めてくれるのです。

太陽光が届きにくい場合でも、設置されたLEDによって光を供給できます。

また地上とは異なり、海水の温度は昼と夜で大きく変化しません。

水中という環境が、ほぼ一定で温かい「理想的な温室」を作り出しているのです。

ちなみに、ドーム内では水耕栽培が採用されています。

これは土を使わず水と液体肥料で植物を育てる方法であり、近年の植物工場では主流になっています。

しかもドームの内壁には結露が生じるため、これを利用して植物に必要な水を供給し続けることが可能。

気候変動に対抗した幻想的な新しい農業「水中温室」
(画像=イチゴの栽培も可能 / Credit:Nemo’s Garden、『ナゾロジー』より引用)

このプロジェクト自体は2012年から始まっていますが、現在までに、トマト、グリーンピース、イチゴ、キノコ、サラダ菜、ハーブ類など100種類以上の作物を育てるのに成功しています。

とはいえ多くの人は、この水中温室にどんなメリットがあるのか疑問を抱くことでしょう。

実際、コストや効率面だけを見ると、従来どおり地上での栽培や植物工場の方がはるかに効果的です。

しかし「植物栽培できる新しい場所を見いだす」という観点で見ると、水中温室が唯一無二であり、将来の可能性を秘めていると分かります。

気候変動に対抗した幻想的な新しい農業「水中温室」
(画像=コストパフォーマンスは悪いが、新しい栽培場所として特別なニーズを満たせるかも / Credit:Nemo’s Garden、『ナゾロジー』より引用)

現在でも環境条件が整っておらず、植物の栽培が困難な国は存在します。

例えばモルディブはアジアのインド洋にある島国ですが、新鮮な農作物のほぼ100%を空輸に頼っています。

こうした国が水中温室によって、いくらかでも国産品を生産することには大きな意味があります。

また将来起こるかもしれない劇的な環境変化に備えて、水中温室の道を探っておくことには長期なメリットがあると言えるでしょう。

参考文献
A new underwater greenhouse could reveal the future of agriculture
People are growing food in underwater greenhouses on the coast of Italy

提供元・ナゾロジー

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功