カリフォルニア大学デービス校の研究により、致死性の病原菌を運ぶマダニは、気温上昇にともない、宿主の好みを犬から人に変えることが判明しました。

マダニが媒介する病気は「ロッキー山紅斑熱 (以下、RMSF)」と呼ばれ、治療が遅れれば、5人に1人が死亡するリスクを持ちます。

研究主任のローラ・バックス氏は「温暖化によってマダニの生息範囲が広がり、RMSFの発症率も増加すると見られる」と述べています。

目次
マダニが媒介する病気、発見が遅れると「致死率20%」に
高温下でターゲットが人に変わる

マダニが媒介する病気、発見が遅れると「致死率20%」に

RMSFを媒介するのは「Brown dog tick」という主に犬に寄生するマダニの一種で、世界中の温帯地域に分布します(日本にも生息)。

最も被害の多いアメリカでは、過去20年でRMSFの患者が劇的に増え続けており、特に、平均気温の高い南部州で集団発生が多発している状況です。

犬のマダニは、気温が上がるとターゲットを人に変える
(画像=RMSFを媒介するマダニ / Credit: Centers for Disease Control and Prevention、『ナゾロジー』より引用)

RMSFは、感染初期に発見されれば抗生物質で簡単に治療できますが、発見が遅れると患者の致死率は20%を超えます。

潜伏期間は3〜12日で、初期症状は頭痛、筋肉痛、軽い発熱など、一般的な病気と誤認されやすいです。

そのため、病気を放置するケースも多く、悪化すれば血管の損傷、心臓、肺、脳の炎症、腎不全を引き起こします。

研究チームは、このマダニが気温の上昇にともない、寄生対象を犬から人に変える傾向があることを知り、調査を行いました。

高温下でターゲットが人に変わる

実験では、高さ90センチ、幅60センチのボックスを2つ用意し、互いを透明のチューブで接続します。被験者として一方に人を、もう一方に犬を入れて、間のチューブに20匹のダニを投入します。

その後、匂いに基づいて宿主を探すダニが人と犬のどちらを好むかをテストしました。

ボックス・チューブ内の温度は、1回目23℃、2回目37℃に設定し、それぞれ20分間で行います。

犬のマダニは、気温が上がるとターゲットを人に変える
(画像=実験の様子 / Credit: Don Preisler-UC Davis School of Veterinary Medicine、『ナゾロジー』より引用)

その結果、37℃の高温下では、マダニが宿主の好みを犬から人に変えることが判明しました。

気温が23℃から37℃に上昇する中で、ダニが人間を宿主に選ぶ傾向は2.5倍高くなっています。

バックス氏は「これは温暖化によりRMSFの発症リスクが高まることを示しており、温暖な地域はこれまで以上に注意が必要」と指摘します。

現在、RMSFを媒介するマダニはアメリカ南部やメキシコに多く分布しますが、温暖化によりその生息ラインはさらに北上するでしょう。

その一方で、マダニがターゲットを犬から人に変える理由はわかっていません。

もしかしたら、37℃の高温下では、体毛の多い犬より、毛の少ない人肌がちょうどよくなるのかもしれません。

【編集注 2020.11.17 14:20】
タイトルを一部修正して再送しております。


参考文献

scitechdaily

livescience

theguardian


提供元・ナゾロジー

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