幅0.5mmの史上最小カニ型ロボットが開発されました。
この開発に携わったのは、アメリカ・ノースウェスタン大学(Northwestern University)に所属するジョン・ロジャース氏ら研究チームです。
彼らは2021年9月に史上最小の「翼をもつ飛行マイクロチップ」を開発しましたが、今回は遠隔操作で地面を歩行できるマイクロボットのようです。
しかもこのカニ型ロボット、電気や油圧などの動力源を必要としません。
研究の詳細は、2022年5月25日付の科学誌『Science Robotics』に掲載されました。
目次
わずか0.5mmの史上最小カニ型ロボット
形状記憶合金とレーザーで遠隔操作できる
わずか0.5mmの史上最小カニ型ロボット
極小サイズのロボットである「マイクロボット」は、さまざまな分野で役立ちます。
例えば、小さな構造物や機械の内部に潜って修理したり、人間の体内に潜入して、動脈の詰まりや悪性腫瘍を取り除いたりできるでしょう。
しかしロボットのサイズを小さくすればするほど、マイクロボットを動かすための部品や動力源をロボット内部に収納するのが難しくなってしまいます。
これがマイクロボットの大きな課題です。
今回開発された史上最小のカニ型ロボットは、それらの課題を新しいアプローチで解決しており、わずか0.5mmのサイズを実現できました。
ノミ(約3mm)よりもはるかに小さいのです。
しかもこのカニ型ロボットは遠隔操作が可能であり、1秒あたり体長の半分の距離(約0.25mm)を移動できます。
研究チームは、「小型の地上ロボットを、この速度で歩行させるのは非常に難しいことです」と述べました。
つまり開発されたカニ型リモコンロボは、従来の小型歩行ロボに比べて非常に素早く歩行できるというのです。
では、どのようにして極小サイズと素早い移動を両立させたのでしょうか?
形状記憶合金とレーザーで遠隔操作できる
開発されたカニ型ロボットは、電気や油圧などの一般的な動力源をもっていません。
また複雑な部品やメカニズムで動作することもありません。
歩行の秘密はロボットの材料にあります。
このロボットは、特殊な形状記憶合金で作られています。
熱を加えることで「記憶していた形」に変形し、冷めると元に戻る性質があるのです。
そのため加熱と冷却を繰り返すことで、特定の部位を「曲げたり」「伸ばしたり」と、関節のように動かせます。
そして走査型レーザーを利用することで、ロボットを意図通りに遠隔操作できるようです。
まずレーザーをロボットに照射することで、ロボットは急速に加熱され変形。
しかしロボット自体は非常に小さいため、レーザーが通りすぎると、すぐに冷却されて元の形に戻ります。
つまりロボットの各部位をレーザーで順番に照射していくなら、その順番で関節が動き、意図した動作を作り出せるのです。
例えば、レーザーが右から左に通り過ぎると、ロボットは左から右に移動します。
設計・操作によっては、ただ歩行するだけでなく、回転やジャンプも可能なのです。
さてこの新しいアイデアは、まだ多くの改善や研究を必要としますが、より便利なマイクロボットを生み出す可能性を秘めています。
今回は研究チームの気まぐれでカニ型に作られましたが、尺取虫型、コオロギ型、カブトムシ型など、さまざまな形状に仕上げることができます。
将来、レーザーで遠隔操作できるいろんなタイプのマイクロボットが登場するかもしれませんね。
参考文献
Tiny robotic crab is smallest-ever remote-controlled walking robot
元論文
Submillimeter-scale multimaterial terrestrial robots
提供元・ナゾロジー
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