『マシンVS フリーウエイト』や『ダンベルVS バーベル』など、トレーニング器具の優劣を比較する話はいつの時代にもあるものだ。もちろん、今回話題にしたいケトルベルVS ダンベルについての議論もある。どっちでもいいじゃないかと思う人もいるだろうが、多くの人がはっきり白黒つけたいと考えているので、ケトルベルVS ダンベルについての意見をまとめてみることにした。

text by IRONMAN

一部の国では長い歴史を持つケトルベルだが、アメリカでケトルベルが爆発的な人気になったのは、今からおよそ10年ほど前のことではなかっただろうか。それまでアメリカではケトルベルについての情報はほとんどなく、見たこともないという人がほとんどだった。ちなみに、ケトルベルの“ケトル”はヤカンという意味がある。確かにその形状はヤカンのようで、手に持つと明らかに負荷の伝わり方がダンベルとは異なるのがわかる。では、どちらのほうが筋発達には効果的なのだろうか。総合的な判断は難しいが、目的ごとに分けて考えると、ダンベルもケトルベルもそれぞれに長所と短所が見えてくる。

それぞれの長所

ダイナミックな動作ならケトルベル

「ケトルベル」VS「ダンベル」に白黒つける【筋トレ豆知識】
(画像=『FITNESS LOVE』より引用)

例えば瞬発力を向上させたい、瞬間的に大きな出力を発揮するための能力を養いたいというのであれば、ダンベルよりもケトルベルを使った種目のほうが有効だ。その理由はケトルベルの形状にある。球体の上部にハンドルが取り付けられているケトルベルを握ると、負荷が真下にかかり、振り子のような動きが可能になる。そのような動きは出力する際にスピードが加算されるため、瞬発的な力を発揮するのに役立つのである。複数の実験で、瞬発力、反動力、パワーを向上させるならケトルベルを使った種目が効果的であることが示されている。ケトルベルを使った種目の大半は多関節種目であり、ひとつの動きで複数の筋肉が同時に力を出す。例えばケトルベルには以下のような代表的な種目がある。

●ケトルベルを握って腕を下ろした姿勢から、前方に振り上げて瞬時に肘を曲げ、肩の高さにケトルベルを保持するケトルベルクリーン
●ケトルベルを前方に振り上げて、一気に頭上にまで押し上げるケトルベルスナッチ
●床に仰向けになった姿勢から、片手に保持したケトルベルを天井に向けて押し上げ、そのまま体を捻りながら立ち上がるトルコ式ゲットアップ
●片手に保持したケトルベルを頭上に押し上げたままの姿勢で、体を側屈させて胴部側面を刺激するウィンドミル
●保持したケトルベルを体の正面に振り上げて下ろすスイング

これらのケトルベル種目は瞬発力だけでなく筋力や代謝も向上させるので、さまざまな目的を持つアスリートにもお勧めだ。

基礎筋力の向上ならダンベル

「ケトルベル」VS「ダンベル」に白黒つける【筋トレ豆知識】
(画像=『FITNESS LOVE』より引用)

基本的な種目の多くは胸、肩、下半身の筋肉を刺激するわけだが、これらの部位の筋力を向上させることは全身の基礎筋力のレベルアップにつながる。基礎筋力が強い人は、さまざまな種目でしっかり対象筋に負荷をかけていくことができるようになるため、レベルアップしていくスピードが速いのである。

土台固めをしっかりしていきたいというのであれば、ダンベルを用いた種目を行うのが最適だ。ダンベルは左右対称に重量がついているので、ケトルベルトが得意とする振り子のような動きには適さない。つまり反動を活かして出力するような種目には適していないのである。その代わり、重量が左右についているため、左右のどちらかに傾かないようにバランスを保つことが求められ、固定させるためのスタビリティ能力が養われる。

肩の高さに保持したダンベルを頭上に押し上げるショルダープレス、ベンチ台に仰向けになり、胸の高さに保持したダンベルを天井に向けて押し上げるチェストプレス、肩の高さにダンベルを保持したまましゃがみ込んで立ち上がるスクワットなどが基礎筋力の向上に役立つダンベル種目である。ダンベルを使った種目の最大の利点は動作がシンプルな点だ。基本的には直線上を移動させる動作で構成されていて、それだけで対象筋を主に刺激することができるため、動作をマスターしやすく、効かせやすいことがダンベル種目の長所なのである。

目的に合わせた使い分け

ケトルベルとダンベル、どちらがいいかについて結論を出すことはできない。両者にはそれぞれ形状があり特徴がある。そのため得意とするものが異なるのだ。異なるものに優劣をつけるのは無理な話だ。だったら、それぞれの長所を取り入れて、ダンベル種目とケトルベル種目の両方を織り交ぜたワークアウトを作るのが賢明だろう。

あるいは、ダンベル種目に飽きたらケトルベル種目に切り替えて行ってみるのもいいだろう。そうすることで、ダンベル種目のワークアウトで基礎筋力を向上させ、ケトルベル種目のワークアウトでパワーアップを図ることができる。それぞれの能力を伸ばしていくことは、結果的に総合的な身体能力の向上につながることなので決して無駄になることはない。

「ケトルベル」VS「ダンベル」に白黒つける【筋トレ豆知識】
(画像=『FITNESS LOVE』より引用)

ワークアウトの中身はダンベル種目とケトルベル種目を織り交ぜた構成にするとして、ワークアウトの締めくくりにはどんな種目が適しているだろうか。これについても正解はないが、人によっては対象筋にガツンとしたインパクトの強い種目を最後にやりたかったりするだろう。そのような人たちは、一滴のエネルギーも残さずにワークアウトを終えたいと考えているから徹底的に追い込みたいのだ。そうであるなら、ケトルベルを使い、60秒間の制限時間内にひと振りもできなくなるまでスイングを行ってワークアウトを締めくくってみてはどうだろうか。あるいは、自重を負荷にして血流量をできるだけ増やし、疲労物質を押し流してワークアウトを締めくくるのもいいだろう。どのような種目をワークアウトの最後に行っても構わないが、自分の好みや目標を明確にすることで、自ずと種目の順番も決まってくるのでじっくり構成を考えてみるといいだろう。

初級者はダンベルから

初級者の場合は基礎筋力が十分に出来あがっていない。初級者のうちにどれだけ強い土台がつくれるかで、その後の発達スピードが変わってくる。まずはしっかり基本を学び、基礎的な力を養っていこう。そのために用いるべき器具はケトルベルよりダンベルのほうが効果的だ。ダンベルは左右均等に力がかかるので、握ったときに安定させやすい。そのため、ダンベル種目は初級者でもバランスが取りやすく、適切な重量であれば正確なフォームの維持に集中することができるのである。

初級者の中にはケトルベルを扱いたいという人がいるかもしれないが、ケトルベルは初級者には不向きである。ハンドルを握ったときに真下に重力がかかるため、しっかりハンドルを握らないと動作の途中でケトルベルが手から滑り落ちたり、離れてしまう危険性があるのだ。また、ケトルベル種目は弾みをつけやすいので、重量をコントロールするための基礎的な筋力がなければ、反動をコントロールできずにケガをするリスクが高まる。以上のような理由から、ケトルベルは初級者には向いていないと言える。

少しずつ負荷を増やす

「ケトルベル」VS「ダンベル」に白黒つける【筋トレ豆知識】
(画像=『FITNESS LOVE』より引用)

トレーニングの習慣が身についてくるころにはさまざまな種目を覚え、筋力もかなり向上したことに気付くわけだが、多くのトレーニーがちょうどそのころからスランプに陥る傾向が見られる。つまり、筋力向上の頭打ちを経験するようになるわけだ。原因の一つは、扱ってきた重量では筋肉が刺激を感じなくなってきたからだ。そうであれば、必要なことは使用重量を増やすことだ。ダンベルなら小刻みに重量を増やしていくことができるので、そのタイミングがきたら負荷を増やして筋肉に新たな刺激を与え、筋発達を継続させることができる。一方、ケトルベルの場合は小刻みに重量を増やすというわけにはいかない。ケトルベルの重量はダンベルほど細かく刻まれていないため、比較的多くの器具が揃っている大きなジムであってもワンランク重いルベルを使おうとすると負荷の増加率が一気に上がってしまうことになる。その点、ダンベルなら5ポンド(2.2㎏)刻みで設置されていることが多いので、少しずつ負荷を重くし、筋力を継続的に向上させていくことに適している。

ケトルベルとダンベルとでは用いる人の筋力レベルや目的に合わせて使い分けをするのが理想であり、どちらが優れているとは断言できないことが分かるはずだ。結局、どちらもいいのだ。両方をワークアウトに取り入れることで筋力を伸ばし、パワーを伸ばし、心肺機能を向上させることができる。うまく使い分けて確実に次のレベルにステップアップしていくのが正しいウエイトトレーニングである。

提供元・FITNESS LOVE

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