「恐竜は温血か冷血か」という問題は、長年にわたり古生物学者を悩ませてきました。

しかしこのほど、米カリフォルニア工科大学(Caltech)の研究チームは、「代謝率」いう新たなアプローチで恐竜たちの体温を調査。

その結果、ティラノサウルスのような捕食恐竜は代謝率の高い「温血動物」であり、反対に、トリケラトプスやステゴサウルスは代謝率の低い「冷血動物」だった可能性が高いと判明しました。

残忍なハンターであるティラノサウルスも、体に流れる血は温かかったようです。

研究の詳細は、2022年5月25日付で科学雑誌『Nature』に掲載されています。

目次
代謝率で「温血or冷血」を見極める
ティラノサウルスは温血、トリケラトプスは冷血

代謝率で「温血or冷血」を見極める

残忍なハンターであるティラノサウルスの血は温かかったことが判明!
(画像=代謝率から「温血」か「冷血」かを見極める / Credit: canva、『ナゾロジー』より引用)

代謝というと「体型を維持しやすいかどうか」という観点で考える人が多いかもしれません。

しかし、研究主任のヤスミナ・ウィーマン(Jasmina Wiemann)氏いわく、「代謝の核心は、呼吸した酸素をいかに効率よく化学エネルギーに変換し、体の燃料とするか」であるという。

哺乳類や鳥類など、代謝率の高い温血(恒温)動物は、一定の体温を保つために多くの酸素を取り込み、カロリーを消費し続けなければなりません。

反対に、爬虫類や魚類など、代謝率の低い冷血(変温)動物は、外気温に体温を依存するため、発熱の必要がなく、呼吸や食事量が少なく済みます。

たとえば、トカゲは冬場になると、よく樹上から地面に落っこちて動かなくなります。

これは死んでいるわけではなく、血液が冷えすぎて、体が動かなくなるためです。

そのため、バスキング(日光浴)をして体を温めなければなりません。

残忍なハンターであるティラノサウルスの血は温かかったことが判明!
(画像=バスキングをするトカゲ / Credit: canva、『ナゾロジー』より引用)

今回の研究チームは、恐竜の体温を調べる方法として、代謝率の基本的な特徴の一つである「酸素消費量」を調べるという今までにないアプローチをとりました。

まずチームは、恐竜・翼竜・水棲の首長竜・現生の鳥類、哺乳類、爬虫類など、55種類の動物の大腿骨を分析。

そして骨の中の呼吸に関連した代謝産物の量(=酸素消費量)を調べ、現生する動物たちの代謝率と比較しました。

このデータをもとに絶滅した恐竜たちの代謝率を推定した結果、恐竜はグループによって、温血と冷血のいずれかに分かれることが判明したのです。

ティラノサウルスは温血、トリケラトプスは冷血

恐竜には大きく分けて、「竜盤類(saurischians)」と「鳥盤類(ornithischians)」の2グループあります。

竜盤類はさらに、竜脚形類(ブラキオサウルスのような首長の巨大草食種)と獣脚類(ティラノサウルスやヴェロキラプトルなどの肉食種)に分かれます。

鳥盤類には、角竜類(トリケラトプス)・剣竜類(ステゴサウルス)・鎧竜類(アンキロサウルス)など、多様な草食種が含まれます。

残忍なハンターであるティラノサウルスの血は温かかったことが判明!
(画像=恐竜の「竜盤類」と「鳥盤類」に分かれる / Credit: canva、『ナゾロジー』より引用)

このうち、竜盤類は一様に代謝率が高く、常に一定の体温を維持した「温血動物」である結果が示されました。

獣脚類の子孫が今日の鳥類であることを踏まえると、ティラノサウルスが温血であったことも納得できます。

問題は、ブラキオサウルスなど巨大な身体を持つ草食種であった竜脚形類の方です。

巨大な草食種が一定の体温を常に維持しようとすると、莫大な食料と巨大な心臓が必要になります。

このような莫大なコストを掛けてでも、彼らが温血を選ぶ合理的な理由はあまり思い浮かびません。

ただ一方で、莫大なコストを掛けた体温維持機能がなくとも、彼らは「運動熱や腸内菌の発酵熱、日光の熱を体内に蓄えるだけで体温をほぼ一定に保てた」とする、今回の結果を支持する意見もあります。

「むしろ、どうやって体熱を逃すかの方が、彼らにとって問題だったでしょう」とウィーマン氏は指摘します。

残忍なハンターであるティラノサウルスの血は温かかったことが判明!
(画像=左から首長竜・ステゴサウルス・ディプロドクス・アロサウルス・ハチドリ(色は体温を示す) / Credit: J. Wiemann(YaleNews, 2022)、『ナゾロジー』より引用)

そして、鳥盤類は全体的に代謝率が低く、冷血動物であった可能性が示されました。

中型の草食種である鳥盤類は、今日のトカゲやリクガメのように、外気温に依存して体温を調節していたと考えられます。

トリケラトプスやステゴサウルスは、寒い時期になると、なるべく暖かい地域へ移動したのかもしれません。

まとめ

本研究の成果は、絶滅した恐竜の生活について理解を深めるだけでなく、現代の動物たちが気候変動にどう対応するかを知る助けにもなるでしょう。

ウィーマン氏はこう述べています。

「私たちは今、第6の大量絶滅の時代に直面しているのです。

そのため、絶滅した動物が、過去の気候変動に対して生理的にどう反応したかを理解することが重要となります。

そうすれば、現存する生物種の保全に役立ち、私たちの今後の行動を変えるきっかけにもなるはずです」


参考文献

T. rex and its close relatives were warm-blooded like modern birds

Hot-blooded T. rex and cold-blooded Stegosaurus: Chemical clues reveal dinosaur metabolism

元論文

Fossil biomolecules reveal an avian metabolism in the ancestral dinosaur


提供元・ナゾロジー

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