3月下旬から始まった上海市全域のロックダウンは、中国経済に深刻なショックをもたらした。4月の統計では、小売売上げが前年を11%下回ったほか、鉱工業生産も前年比3%減と、21カ月ぶりに前年割れに転じた。政府が最も危機感を強めているのは、失業率が、武漢で新型コロナが大流行した20年2月期と同水準の6.1%まで悪化していることだ(図表)。加えて、野菜価格が前年比24%、果物価格が同14%上昇するなど、サプライチェーンの機能不全による生鮮食料品の価格高騰も市民生活を直撃している。
今秋の党大会で異例の3期目突入を目指し、ロケットスタートを切りたかった習近平国家主席にとって、上海のロックダウン長期化は最悪のシナリオといえる。しかし、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で掲げた5.5%前後の経済成長率目標をまだ諦めていない習政権は、ここから背水の陣を敷き、上海が正常化する6月からフルスロットルでの巻き返しを狙っている。
中国の新規感染者数は一時3万人規模にまで膨れ上がったが、その後は減少傾向に転じ、5月中旬には1,000人を下回った。これを受けて、上海市の政府は5月16日から段階的な規制解除を進め、6月中に全面正常化を目指すと発表した。5月中旬から時間制限付きながら市民の外出が解禁となり、小売り、飲食、理髪、金融等の店舗営業も順次再開している。下旬には地下鉄やバスが動き始め、6月からは通学、通勤などが全面正常化する。
ロックダウンが終了する6月以降は、景気回復が本格化することが見込まれる。政府はマクロ政策を総動員して回復を加速するよう地方に指示を出している。
主な施策としては、①サービス業・中小企業への分厚い資金補塡(減税、社会保険料優遇、各種補助金、金利引き下げ等)、②消費促進策(自動車や家電の購入補助金、デジタル消費クーポン等)、③投資促進策(インフラ建設や大型ハイテク投資等の加速)、④不動産購入促進策(住宅ローン金利の引き下げ、住宅購入規制の緩和等)──が挙げられる。
もっとも、感染のリバウンドが許されない上海市はロックダウン解除を慎重に進めているため、「火力」不足の4~6月期は経済成長率が1~3%程度にとどまり、1~3月期の4.8%から大きく下振れる見通しだ。政策効果で年後半は景気が加速するが、通年の経済成長率は目標には届かず、4%台前半にとどまる可能性が高い。
ゼロコロナ政策の呪縛を乗り越え、力強いⅤ字回復を実現するのか。それとも、雇用悪化等ロックダウンの後遺症やゼロコロナ対応が足かせとなり、狙いどおりには回復が進まないのか。秋の党大会に向けて習政権は正念場に差し掛かっている。
文・岡三証券 チーフエコノミスト(中国) / 後藤 好美
提供元・きんざいOnline
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