サル痘に有効な治療薬があるようです。

英国のNHS(国民健康サービス)財団で行われた研究によれば、天然痘のために開発された抗ウイルス薬が「サル痘」にも有効であった、とのこと。

天然痘に似た症状を発する「サル痘」は現在、欧米を中心に感染が急拡大しているものの、認可された治療薬が存在しません。

しかし研究では、天然痘の治療のために開発された2つの抗ウイルス薬のうち1つが、治療効果がある可能性が示されました。

研究内容の詳細は2022年5月24日付で『The Lancet Infectious Diseases』に掲載されました。

目次

  1. サル痘のこれまでにない感染拡大
  2. 天然痘の治療のために開発された抗ウイルス薬に治療効果があった

サル痘のこれまでにない感染拡大

天然痘の治療薬が「サル痘」にも効果があると発表
(画像=サル痘に感染すると天然痘に似た症状が現れます / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より 引用)

人間への「サル痘」感染はこれまで、アフリカ諸国以外ではほとんどみられませんでした。

また感染経路も限定的であり、サル痘ウイルスに感染した動物に噛まれるたり、調理が不十分なウイルス汚染された肉を食べるなど、動物から人間に感染するケースが多くを占めていました。

人から人へ感染する例も確認されてはいましたが、やはり事例の多くはアフリカに限られていました。

しかし最近になって、欧米を中心にサル痘ウイルスの感染者が急増しています。

WHO(世界保健機関)は今月の20日、少なくとも11カ国で80人の感染者と50人の感染の疑いがある人が確認されたと発表しています。

(※24日にはUAE(アラブ首長国連邦)でもサル痘感染者が確認されたと発表され、15カ国以上に感染が広がっています)

ですが最も注目すべきは、新規感染者の多くがアフリカへの渡航歴がない点にあります。

アフリカ以外の複数の異なる地域で短期間にこれほどの感染者が出たという事実は、サル痘の感染パターンがこれまでとは違う挙動をみせている結果と言えるでしょう。

また新規感染の少なくないケースが、人から人への感染と考えられており、クラスター発生も確認されています。

このような世界規模の感染拡大は通常、ウイルスの変異が主因と考えられますが、現状では詳しいことは判っていません。

そのためWHOは今回のサル痘感染拡大を「異例である」として警戒感を表明しています。

しかし残念なことにサル痘への有効な治療法は確立されておらず、認可された治療薬も存在しません。

サル痘の死亡率は1~10%とされており、新型コロナウイルスとは違って子供の死亡率が高くなっています。

もしサル痘のパンデミックが起これば、多くの子供たちが犠牲になるかもしれません。

そこで英国NHS財団の研究者たちは、自国で確認された7人のサル痘感染者を対象に実験的な抗ウイルス薬の投与に踏み切りました。

(※被験者となった7人のうち3人は人から人への感染であり、この3人のうち1人は医療従事者で2人は家族内のクラスター感染でした)

天然痘の治療のために開発された抗ウイルス薬に治療効果があった

天然痘の治療薬が「サル痘」にも効果があると発表
(画像=天然痘の治療のために開発された抗ウイルス薬に治療効果があった / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より 引用)

研究では7人の患者たちに対して2種類の抗ウイルス薬が投与されました。

これらの抗ウイルス薬はもともと、天然痘の治療薬として開発されたものでした。

天然痘ウイルスとサル痘ウイルスは遺伝的に非常に近く同家系とも言える間柄であるため、天然痘用の抗ウイルス薬でもサル痘を治療できる可能性があったからです。

実際、人間に先立って行われた動物実験では、どちらの薬もサル痘に対する治療効果がありました。

研究では7人の被験者のうち3人は治療薬なし、3人に抗ウイルス薬「ブリンシドフォビル」が投与され、残りの1人には別の抗ウイルス薬「テコビリマット」が投与されました。

結果、ブリンシドフォビルを投与された3人では効果が確認できず、肝臓に危険な副作用があらわれたため使用が中止されました。

一方で、テコビリマットを投与された1人の患者では急速な回復がみられました。

(※ウイルスは血液だけでなく鼻や喉など上気道でも検出されています)

薬の効果を確かめるには通常、プラセボ(偽薬)を用いた試験を必要とします。

研究者たちも試行回数の少なさを認めているものの、感染の急拡大が起きている現状では、わずかな情報でも役に立ちます。

財団の研究者たちは今後、サル痘の感染者が多い中央アフリカ共和国において「テコビリマット」の有用性を再検討すると述べています。

なおテコビリマットは現在、米国などで天然痘を使ったバイオテロに備えて200万回分が備蓄されているようです。

参考文献
THE LANCET INFECTIOUS DISEASES: Study reports first use of antivirals in monkeypox patients, highlighting challenges in understanding and treating this rare disease
元論文
Clinical features and management of human monkeypox: a retrospective observational study in the UK

提供元・ナゾロジー

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