スカンディナヴィア半島の強戦士として知られる「ヴァイキング」は、9〜11世紀にかけ、ヨーロッパ沿岸部で侵略や略奪を繰り広げました。
重厚な手斧や盾、2本の角が生えたカブトを身に着け、ロングシップに乗る姿が、ステレオタイプとして浸透しています。
ところが、9月16日付けで科学雑誌『Nature』に発表された最新の研究において、ヴァイキングは、スカンディナヴィア人の遺伝子のみを受け継ぐ、純粋に民族的な戦士ではなかったことが判明しました。
6年におよぶDNA調査によると、スカンディナヴィアには、ヴァイキング時代(諸説あるが、一般に800〜1050年代を指す)以前に、南ヨーロッパ、西アジア、ロシアからの遺伝的流入があったとのことです。
目次
毛髪はブロンドではなく茶色
ヴァイキングは希望者が入れる「グループ」だった⁈
毛髪はブロンドではなく茶色
ケンブリッジ大学、コペンハーゲン大学らの国際チームは、ヨーロッパ各地とグリーンランドに点在するヴァイキングの遺跡から採取した442名の遺骨のDNA分析を行いました。
遺骨には、成人の男性と女性だけでなく、幼児や乳児も含まれており、ヴァイキングに関する史上最大規模の調査となっています。
DNA分析の結果、さまざまな新事実が発覚しました。
まず、ヴァイキングの毛髪は、今日のスカンディナヴィア人(ノルウェー、スウェーデン、フィンランド)に見られる金色ではなく、黒や茶色が多くを占めていました。
それから、遺伝的な先祖は、スカンディナヴィア人に限られておらず、南ヨーロッパや西アジアとの遺伝的混交が見つかっています。
また、彼らはヨーロッパ各地に移動しており、今日のノルウェーのヴァイキングは、アイルランド、スコットランド、グリーンランドへ、スウェーデンのヴァイキングは、ロシアやウクライナ、バルト諸国へ渡っていました。
ノルウェーの遺跡からは、西アジアやシベリア人に近い遺伝子を持つ遺骨が見つかっています。
ヴァイキングは希望者が入れる「グループ」だった⁈
さらに、スコットランド・オークニー諸島の遺跡では、ヴァイキングの証である剣や副葬品と共に埋葬されていた人物が、スカンディナヴィア人とは無縁の地元民と判明しました。
それでも遺伝子とは関係なく、ひとりのヴァイキングとして埋葬されていたのです。
研究主任のエスケ・ウィラースレフ教授は「これまでの調査のおかげで、ヴァイキングの歴史的な動向はよく知られていますが、遺伝的にどういう存在なのかはほとんど不明でした。
しかし、本研究により、彼らは遺伝子的にきわめて複雑に混交しており、ひとつの民族に限定されていなかったことが明らかにされました」と説明します。
つまり、「ヴァイキング」という存在は、身体的に繋がった集団ではなく、同じ志を持つ人々が精神的にまとまった社会的グループだったのかもしれません。
参考文献
phys
sciencemag
提供元・ナゾロジー
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