カナダ北西部の永久凍土から、5万7000年前の子オオカミのミイラがほぼ完全な保存状態で発見されました。
これまでに見つかった中では、最古のオオカミの標本とのことです。
また、シベリアでなく北米での発見は珍しいことから、北米オオカミの起源を知る貴重な資料となります。
研究は、12月21日付けで『Current Biology』に掲載されました。
目次
DNA分析から「祖先の起源」も判明
なぜ子オオカミは独りで死んだのか?
DNA分析から「祖先の起源」も判明
オオカミのミイラが見つかったのは2016年7月のことで、場所はユーコン準州にあるクロンダイク金鉱地です。
ミイラは、柔らかな筋組織から体毛、皮膚、鼻、歯まで、ほぼすべてが完全な状態で残っています。
デモイン大学(アメリカ)の調査により、オオカミは生後7週間のメスで、生息年代は5万7000年前と特定されました。
母系遺伝のミトコンドリアDNAを解析してみると、子オオカミには、かつてのユーコンやアラスカに分布した「ベーリンジアン・オオカミ」と、ロシアに分布した「ハイイロオオカミ」の両方との類似性が見つかっています。
これは氷河時代にロシアと北米をつないでいたベーリング海峡を架け橋に、双方のオオカミが混交した証拠と言えるでしょう。
また、骨の分析から、子オオカミが短い生涯の中で食べていたエサも判明しました。
それによると、川に生息したチヌックサーモンや水鳥のような水生生物を食べていたようです。
子オオカミが生きた時代は、氷河が少し後退しはじめた間氷期にあたり、水辺での狩りも可能でした。
氷河期には陸上でバイソンやジャコウウシを狩っていたと思われますが、オオカミは季節によって水生のエサに切り替えることが知られています。
なぜ子オオカミは独りで死んだのか?
しかし、気になるのは「なぜ子どものオオカミがたった1匹で死んでいたのか」ということです。
永久凍土で動物がミイラ化するには、いくつかの条件をクリアしなければなりません。
1つは、地面が常に凍っている場所で死ぬこと。もう1つは、死後すぐに凍土の中に埋められることです。
少なくともこの2点をクリアしないと、遺骸が腐ったり、他の動物のエサとなって消えてしまいます。
調査の結果、子オオカミの死因が餓死ではなかったことから、研究チームは「巣穴が崩れたことで圧死したのではないか」と推測しました。
おそらく、親兄弟が狩りに出かけている間に、留守番をしていた子オオカミは巣に押しつぶされて、そのまま気密性の高い環境の中で保存されたのでしょう。
そうすれば、独りでいたことや、保存状態が完璧である理由の説明がつきます。
近年は温暖化の影響で永久凍土が急速に融けており、大昔の動物のミイラが次々と出土しています。
古生物学者にとっては嬉しい悲鳴ですが、出土したミイラはすぐに腐食が始まるので急を要する問題でもあります。
こうしている間にも、どこかで動物のミイラが地上に顔を出しているかもしれません。
参考文献
livescience
interestingengineering
sci-news
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功