私たちにもっとも近い恒星「太陽」ですが、この星には未だに多くの謎が残されています。
その中でも太陽最大の謎と言われているのが、表面温度は6000度なのに表面から離れた大気(コロナ)は100万度以上もあるというコロナ加熱問題です。
12月7日の『Nature Astronomy』に発表された新しい研究は、この問題を説明するナノフレアを確認したという報告を行っています。
目次
コロナ加熱問題とナノフレア
新たに発見されたナノフレアの証拠
コロナ加熱問題とナノフレア
コロナというのは、太陽表面から2000kmほど上空にある太陽の大気層です。
このコロナと呼ばれるガスは100万度を超える高温であることがわかっています。しかし、一方で太陽の表面は約6000度です。
普通に考えて太陽のような燃え盛る火の玉は、表面がもっとも熱く離れていくほど冷えていく印象があります。
なのに上空へ行くほど温度が急激に上昇し、100万度以上も熱くなるというのはなぜなのでしょうか?
これがコロナ加熱問題と呼ばれるもので、太陽最大の謎だとも言われています。
これには、まったくアイデアがないわけではありません。コロナ加熱問題については、いくつかそれを説明する説が提案されています。
有名なのは1970年代に米国の宇宙物理学者ユージン・パーカーが提案した「ナノフレア」と呼ばれる現象です。
通常科学者が観測している巨大なフレアとは異なり、太陽には観測では確認できないような非常に小規模のフレアが、秒間100万回を超える勢いで発生しており、それがコロナを加熱させているというのです。
以来、半世紀近くに渡って科学者たちは、このナノフレアがどのように見えるのかを解明しようとしてきました。
ナノフレアは、観測できないほど小さいと言っても約100億トンのTNTに相当する爆発を引き起こします。
これが周囲の粒子にエネルギーを与えて加速させ、そのエネルギーが何千キロも離れたコロナへ渡されて加熱していると考えられるのです。
しかし、技術が進歩してもナノフレアを目で見ることはほぼ不可能だと考えられています。
なので、このナノフレアの存在を明らかにするためには、その兆候を示す証拠を集めることが重要になります。
2017年には、通常サイズのフレアがまったく起きていない領域で、非常に太陽の活動領域が加熱していることが観測されました。
これは明らかに、目では見えない何かが起きていることを示しています。
今回の研究は、そんな太陽の観測において、NASAの運用する太陽観測衛星「IRIS(アイリス)」の画像を分析し、ナノフレアを説明する新しい発見をしたと報告しているのです。
新たに発見されたナノフレアの証拠
IRISの画像から研究者たちが発見したのは、小さな光のループです。それは周囲より数百万度も高温になっていました。
さらにこの画像からは、シリコンイオンがIRISへ向かって秒速100kmで移動していることを示す青方偏位と、離れていくものは赤方偏移を起こしていることが発見されました。
これはシリコンイオンより軽い酸素イオンからは検出されていません。
研究者たちの見つけた、このデータは何を意味しているのでしょうか?
見えないナノフレアという現象が、コロナを加熱する原因だとすれば、それは発生した巨大なエネルギーを効率的にコロナへと運ばなければなりません。
発見されたデータは、その方法を説明しているのだと研究者はいいます。
データでは酸素のような軽い元素より、シリコンのような重い元素の方がはるかに高温でエネルギーが高いように見えました。
酸素原子と、シリコン原子で、異なる影響を与える熱を研究者が探したところ、一致したものが磁気リコネクション現象です。
重いイオンによって運ばれる波は、波を破壊する乱流の影響を受けやすく、それがイオンを散乱させて、予想を超える範囲に局所的な熱を広げていきます。
実際そのようなことが起こっているのか、研究者たちは再度データの解析を行いましたが、たしかにループが明るくなるのを見た後、コロナは突然数百万度まで加熱されていました。
研究チームは、ここで確かにナノフレアによる局所的な加熱が、太陽コロナ全体の高い温度へとつながっていく過程を発見したのです。
しかし、天文学者たちは、太陽コロナを加熱する目に見えないメカニズムは複数存在しているだろうと考えています。
今回発見された過程は、太陽コロナの異常な高温を説明するパズルの1ピースに過ぎません。まだまだ太陽には多くの謎が潜んでいます。
提供元・ナゾロジー
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