ヒゲの隊長こと佐藤正久参議院議員に仕えていた当時、佐藤議員が毎日外務省や防衛省の資料を読み漁っていたことを思い出す。特に重要な党内での会議、講演やテレビ出演前には色ペンでチェックしながら入念に読み返していた。無味乾燥な役所の文書ではあるが、政府の公式見解を確認しておくことの重要性を私に語ってくれたのだ。

日本が生き残るために:『米中と経済安保 インテリジェンスで読み解く』
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

『米中と経済安保 インテリジェンスで読み解く』でもまた、「公刊情報を確認・分析すること」を著者は提唱している。個人的な想いや信念から離れ、政府の公式見解を踏まえることが国際情勢を専門家と議論する出発点と述べる。

例えば、トランプ政権が公表した「中国に対する米国の戦略的アプローチ」。メディアを賑わした米中間の激しいやりとりに惑わされず、公式文書の内容を注視するよう読者に促す。

新冷戦、米中経済戦争と言葉の応酬は激しいが、ホワイトハウスが公開している公式文書では、米国が中国の体制転換を目指すべきとの戦略的アプローチを披露しているわけではない。インテリジェンス情報のほとんどは公開情報と言われるが、まさに手間暇かけて公式文書を一つ一つ読み解いていく地道な作業が、正確な情勢分析につながるわけだ。

最大の安全保障政策は日本経済の成長であると、著者は言う。経済安全保障の議論では自民党の提言を題材として取り上げているが、その冒頭でも「経済力は国力の根幹であり、国家間関係の基盤である」と述べられている。

経済安全保障というと機微な技術の海外流出を防止するための方策で、守りを固めるために産業界を規制でがんじがらめにするかのような議論がある。しかし、自民党の提言では「経済的繁栄を実現していくための戦略、いわゆる【経済安全保障戦略】を策定すべき…」と述べられている。

同様に米国も中国とデカップリング(分離)を進め巨大市場を手放すつもりなどさらさらなく、中国と公正なビジネスを通じてより多くの経済的繁栄を謳歌したいとの本音を著者は解説する。

扇動的な報道を鵜呑みにすると、米中両大国が今にも戦端を開くかのように状況を読み違える恐れがある。しかし正確に情勢を掴むには、実は身近に、しかも無料で閲覧出来る各国政府の公刊情報を読み解く努力を惜しんではならない。時代の潮流がそこに秘められていることを、著者は繰り返し本書で強調しているのである。

文・ 小林 武史/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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