今夏には、映画『ジュラシック・ワールド』最新作の公開が控えており、恐竜人気は増すばかり。

近年の化石研究の進歩によって、リアルで生き生きとした恐竜たちの描写が可能になっています。

その一方で、空を支配した翼竜たちの飛行能力を、航空力学的に計算し、その性能を評価した研究はほとんどありません。

そこで名古屋大学大学院 環境学研究科のチームは、絶滅した翼竜における「ソアリング飛行(風や気流を利用した滑空飛行)」の能力を計算し、現存する鳥類と比較。

その結果、翼竜の中でも大型の種は、ソアリング飛行に不向きであり、ほとんど飛ばずに陸上生活を送っていたことが示されました。

この新知見により、フィクション作品での翼竜の描き方も変わってくるかもしれません。

研究の詳細は、2022年5月5日付で科学雑誌『PNAS Nexus』に掲載されています。

目次
「ソアリング飛行」には2種類ある
大型の翼竜はほとんど飛べなかった?

「ソアリング飛行」には2種類ある

現存する大型鳥類の多くは、翼を上下させる「羽ばたき飛行」ではなく、より省エネな「ソアリング飛行」を行います。

ソアリング飛行というのは、上昇気流を利用して高度や速度を得る飛行方法のことです。

たとえば、現生鳥類で最大級のコンドルは、飛行時間のうちに占める羽ばたきの割合は全体の1%にすぎません。

そして、ソアリング飛行には大きく分けて、「サーマルソアリング」と「ダイナミックソアリング」の2種類あります。

サーマルソアリングは、温められた地面から生じる上昇気流に乗って旋回上昇し、その後、滑空降下するプロセスを繰り返すもので、コンドルやワシ、グンカンドリによく見られます。

巨大翼竜はぜんぜん飛べなくて陸上で生活していた可能性が高い
(画像=人間が乗るグライダーも同様の原理を利用して長距離を飛行する / Credit:たきかわスカイパーク、『ナゾロジー』より 引用)

ダイナミックソアリングは、海上の風速勾配(海上付近の風は、海面に近いほど風速が小さく、高度が上がるほど大きくなる)を利用して滑空するもので、アホウドリやミズナギドリが代表的です。

巨大翼竜はぜんぜん飛べなくて陸上で生活していた可能性が高い
(画像=過去と現代のソアリング飛行をする生物としない生物(イラスト:きのした ちひろ) / Credit: 名古屋大学 – 巨大翼竜はほとんど飛ばなかった ~絶滅巨大飛行生物と現生鳥類のソアリング能力の比較~(2022)、『ナゾロジー』より 引用)

絶滅した巨大鳥類や翼竜も、省エネのため、いずれかのソアリング飛行を主な移動手段に用いたと考えられますが、実態はほとんど解明されていません。

そこで本研究チームは、航空力学に基づいた、絶滅飛行生物のソアリング能力を検証しました。

大型の翼竜はほとんど飛べなかった?

まずもって、滑空する生物の飛行は、物体の運動(ある時間の位置と速度)を計算する「ニュートンの運動方程式」で記述できます。

チームはこれを用いて、2種の絶滅巨大鳥類:アルゲンタヴィスとペラゴルニス・サンデルシ、2種の翼竜:プテラノドンとケツァルコアトルスのソアリング能力と、持続的な滑空に必要な風速を計算し、現生鳥類と比較しました。

前2種の翼長は6〜7mで、プテラノドンは5〜6m、史上最大級の翼竜として知られるケツァルコアトルスは10mです。

その結果、アルゲンタヴィスとペラゴルニス・サンデルシは、サーマルソアリングに適していたことが判明。

またプテラノドンは、ダイナミックソアリングに適していたとする先行研究もありますが、今回の結果は、サーマルソアリングに適していたことを示しています。

一方で、ケツァルコアトルスは、いずれの能力も他の飛行生物に比べてはるかに低く、ソアリング飛行に不向きであることが判明しました。

巨大翼竜はぜんぜん飛べなくて陸上で生活していた可能性が高い
(画像=2種のソアリング飛行(ピンクの矢印は左側が従来の説、右側が今回判明した方) / Credit: 名古屋大学 – 巨大翼竜はほとんど飛ばなかった ~絶滅巨大飛行生物と現生鳥類のソアリング能力の比較~(2022)、『ナゾロジー』より 引用)

絶滅飛行生物の中でも特にケツァルコアトルスは、飛行能力について長年にわたり議論が交わされています。

これまでは、その巨体のせいで羽ばたき飛行はほぼ続かず、長距離移動には、上昇気流を用いる「サーマルソアリング」に頼っただろう、と考えられてきました。

サーマルソアリングにおいて、生物は上昇気流を受けながら、円軌道を滑空することで上昇します。

このとき、上昇気流の速度が降下する速度を上回れば上昇でき、また、滑空する円の半径(旋回半径)が小さいほど、上昇気流が強い範囲にとどまりやすくなります。

ところが、これらに基づいた計算によると、ケツァルコアトルスのサーマルソアリング性能は、他の生物に比べて極端に低いことが示されたのです(下図)。

巨大翼竜はぜんぜん飛べなくて陸上で生活していた可能性が高い
(画像=サーマルソアリング性能の種間比較(線が上にあるほど能力が高い) / Credit: 名古屋大学 – 巨大翼竜はほとんど飛ばなかった ~絶滅巨大飛行生物と現生鳥類のソアリング能力の比較~(2022)、『ナゾロジー』より 引用)

以上の結果から、ケツァルコアトルスおよび同サイズの超大型翼竜は、ほとんど飛行せず、陸上生活をしていた可能性が高いようです。

映画『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』の最新予告にも、ケツァルコアトルスらしき巨大な翼竜の姿が見えます。

現実には空を飛ぶことは難しかった可能性が示されてしまいましたが、やはり私たちの気持ちの中では巨大な翼竜が雄大に空を飛んでいたことを期待してしまいます。

劇中のケツァルコアトルスは大胆に空を飛んでいるようなので、本作はそんな夢に満ちた巨大翼竜の飛行シーンを楽しめる貴重な機会となるでしょう。


参考文献
巨大翼竜はほとんど飛ばなかった ~絶滅巨大飛行生物と現生鳥類のソアリング能力の比較~

元論文
How did extinct giant birds and pterosaurs fly? A comprehensive modeling approach to evaluate soaring performance


提供元・ナゾロジー

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