フンコロガシは、その名の通り、動物のフンを丸めて転がします。
しかし不思議なのは、逆立ちした状態で後ろ向きに進むのに直線ルートをたどれることです。
その目印の一つとして太陽が使われますが、近年の研究で、太陽のほかに風や月、天の川まで利用していることがわかってきました。
フンコロガシの驚異の習性をのぞいてみましょう。
詳しい報告は、1月11日付けで『Annual Review of Entomology』に掲載される予定です。
直線ルートを進めるのは「太陽と風」を目印にしていたから
フンコロガシは現在、世界に8000種以上が知られており、団子状のフンを転がすのは600種ほどです。
フンの山から団子を作り出し、平均して約6分運んだのち、それを地下に埋めます。
団子は自らの食料やパートナーへの贈りもの、卵を産んで子どものゆりかごにしたりします。
一方で、運搬中はライバルに横取りされる危険性があるため、できるだけハイスピードかつ、最短の直線ルートをたどるように進化してきました。
その時に目印にされるのが「太陽の動き」です。
フンコロガシが太陽の移動ルートを反映して東から西に走ることは、古代エジプトの頃から知られていました。
しかし、それが実験で確認されたのは2003年になってからです。
小さな実験アリーナに数種のフンコロガシを置いたところ、すべてが太陽のある方向に向かってほぼ直線に移動しました。
ですが、フンコロガシに太陽が見えないようカバーをしたところ、ルートはまったくグチャグチャになってしまったのです。
では、太陽が天頂に達する正午(日の出と日の入りの間)では、どうやって東と西を見分けるのでしょう。
2019年の研究によると、フンコロガシは太陽を目印にできないときには「風」を頼りにすることが判明しています。
とくに大事なのは、フンを運ぶ6分の間、風がずっと同じ方向に吹くことでした。
この戦略は、フンコロガシがよく生息する砂漠などで有効です。
砂漠では、朝焼けの日射しで空気が温まって上昇し、正午頃に最も強い風が吹きます。
フンコロガシは太陽が目印として使えないとき、その風向きに沿ってルートを決定していたのです。
それなら、太陽も風も使えない場合、フンコロガシは何を頼りにしているのでしょうか。
フンコロガシは「天の川」さえも目印にできる
2003年の研究によると、夜行性のフンコロガシは「月の光」を目印にしていることが明らかになりました。
自然光はふつう、上下左右のランダム方向に散乱しますが、大気中の微粒子に当たることで偏光(光の振動が規則的になる)します。
フンコロガシは、その月の偏光を頼りにしていたのです。
以前、ミツバチやアリが太陽の偏光をもとに移動することが知られていましたが、太陽光より100万倍も弱い月の偏光を目印にできるのは、あらゆる動物の中でフンコロガシのみです。
しかし、月の見えない夜だってあります。太陽も風も月も使えない場合、フンコロガシはどうするのでしょうか。
その答えは、2013年に解明されました。
なんとフンコロガシは、夜空を横切る「天の川」を目印にすることもできたのです。
プラネタリウムを使った実験では、天の川の向きでフンコロガシの進行ルートをコントロールできることが判明しました。
彼らの視力は弱く、星の一つ一つは見えませんが、明るく広がる天の川の帯はその目で捉えていたのです。
ところが、天の川でさえ目印にできるフンコロガシは、地上の目印(土の壁や木、岩など)にはまったく反応しません。
実験ケースの中に、人目にはわかりやすい石の目印を置いても、自然光や風、天の川がなければ、完全に道を見失うのです。
専門家は「フンコロガシが長期的な巣を持たず、一時的にしか存在しない動物のフンの山から山を行き来する流浪の生活を送っているので、風景を記憶する意味があまりないからかもしれない」と指摘します。
フンコロガシの能力については、まだまだ謎がつきません。
参考文献
smithsonianmag
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功