アメリカ・プリンストン大学化学生物工学科に所属するロドニー・プリストリー氏ら研究チームは、新しい浄水フィルターを開発しました。
新しい浄水フィルターは太陽光を当てるだけで汚染物質を除去できるようになっており、清潔な水が入手しにくい場所で役立ちます。
研究の詳細は、3月31日付けの科学誌『Advanced Materials』に掲載されました。
膨らむフグからインスピレーションを得た浄水フィルター
新しい浄水フィルターは、水を吸収したのち吐き出すスポンジのような仕組みです。
プリストリー氏によると、これは魚の「フグ」からインスピレーションを得て開発されたとのこと。
フグは危険に面したときに体を膨らませますが、その後、水を放出して元に戻ります。
浄水フィルターも同様ですが、水を吐き出すときには綺麗な水になっています。
そして新しいフィルターの最も大きな特徴は、太陽光だけで素早く浄化できることです。
浄水方法は簡単です。まず夕方ごろに池などの水源にフィルターを設置。するとフィルターは周囲の水を吸収してくれます。
翌日フィルターを水源から取り出し、日光に当てると、飲料水レベルにまで浄化された水がフィルターから排出されます。
実際にチームは、浄水フィルターを湖に1時間浸してから、太陽光に1時間晒すことで、綺麗な水が容器に溜まるのを確認しました。
フィルターは石油やその他の油、鉛などの重金属、病原体などの汚染物質を除去でき、繰り返し使用可能です。
加えて電気なども必要ないため、太陽光が当たる場所であれば簡単に飲料水を作り出せます。
温度によって吸水・排水を切り替える特殊ゲルを採用
新しい浄水フィルターは、温度によって変化する特殊なゲル材料で作られています。
常温ではスポンジのように水を吸い込みますが、33℃にまで加熱されると逆に水を排出する特性があります。
ゲルは多孔質なハニカム(ハチの巣)構造をしており、それらは分子鎖でメッシュ状になっています。
しかもその中には水に混ざりやすい親水性領域と、水と混ざりにくい疎水性領域が存在。
常温では分子鎖は長くて柔軟性があるため、親水性の領域に水が流れ込みます。
しかし太陽光が材料を温めると、疎水性の分子鎖が凝集し、逆に水を押し出すのです。
これだけでは普通のスポンジのように思えますが、ゲルは内層と外層の2つの層に包まれており、これらが汚染物質の侵入を防いでくれます。
中層は、ポリドーパミンと呼ばれる材料で、太陽光を熱に変え、重金属や有機分子を遮断する役割があります。
そして外層はアルギン酸のフィルターです。これによって病原菌が内部のゲルに侵入するのを防ぎます。
もちろん、フィルターを通しさえすれば、水は浄化されます。しかし水をフィルター移動させるための力が必要であり、従来のろ過機では電気駆動のポンプが採用されていました。
新しいゲルフィルターはゲルの吸水力と排出力を利用しているので、太陽光以外のエネルギーを必要としません。
加えてゲル材料は低コストなため、非常に高い費用対効果を発揮します。
どんな場所でも簡単に飲料水を生み出すフィルターは、さまざまなケースで活用できるでしょう。
現在、研究チームは、この新しい技術を広く利用するための方法を模索しています。
参考文献
Low-cost solar-powered water filter removes lead, other contaminants
元論文
A Bioinspired Elastic Hydrogel for Solar‐Driven Water Purification
提供元・ナゾロジー
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