中国の大都市の上海では約2400万人が暮らしているが、ゼロコロナ政策によって3月28日から地域を分けてロックダウンが始まり、日常生活に大きな変化をもたらしている。
街道ごとに管理する「居委会」とは
上海では上海市>区>街道>居委会>块长>楼栋长という区分で管理されている。日本でいう県が「上海市」、市などが「区」にあたり、さらにその下の「街道」は人民政府ではなく区人民政府の出先機関で、その名の通り区内の街道ごとに管理する組織。その下に「居委会」(日本語:居民委員会)という日本の町内会に相当する組織があり、ここまでが行政機関である。
その下に「块长」(ブロック長)と「楼栋长」(ビル長)があり、块长は居委会のメンバーで、近隣の特定の地域のいくつかのブロックの責任者となる。ビル長はブロック長から任命されるかその建物の住民から選出され、建物への情報伝達や物資の配給を自主的に行う仕組みになっている。
ロックダウンと解除条件は上海市が決め、各区・街道ごとに配給などを管理し、居委会が管轄している各ブロックのボランティアとともに地域住民へ物資の配給手配やPCR検査実施時の協力を行っている。新型コロナ陽性者が出た際の陽性者の隔離施設への搬送手配なども居委会が主導で行っており、各地域で疑問があるときは基本的に管轄の居委会に電話し問い合わせる仕組みだ。
(参考:ja.wikipedia.org/wiki/居民委員会)
このように見ると隅々まで平等に管理され、物事に迅速に対応しているように見えるかもしれないが、実際には居委会や楼栋长などの構成員には老人も多く、団地内の連絡や日々の運営もなかなかスムーズに進まないといったケースは少なくない。
また街道ごとの裁量が大きく、各地域で物資の配給の内容に差が出たりするのも特徴だ。長寧区という日本人が多く住む地域の一部の街道ではカルビーのフルグラが配給で支給された。一方で徐汇区ではLUXが配られたり、配給回数も異なり、地域によって内容はまちまちになっていることが不平不満の声を大きくしている。
購買はネットスーパー・出前から共同購入「团购」へ
2020年の新型コロナ感染拡大の初期の頃には、外卖と呼ばれるUberEatsのような出前システムが機能しており、配送員の毎日の検温結果と非接触配送により、コロナ禍でも盒马のようなネットスーパーや出前の豊富な選択肢の中から食品や生活用品を購入することができた。しかし2022年現在は、オミクロン株の感染力の強さにより多くの配達員に陽性者が出るようになったために、ロックダウン時にはすべての物流の停止を余儀なくされた。
この状況下では事前許可を得た配達員しか配送を行うことができず、今まで簡単に商品を購入することができた生活が一変してしまった。そのため品質認可を受けた業者から商品を購入する「团购」(日本語:共同購入)と呼ばれる共同購入が主流となっている。
团购はその名の通り共同購入なのだが、現在の上海では各団地内で团购リーダーを決め、購入希望者を募り一斉に購入・配送してもらう流れが多い。事前認可を受けた配送員がかなり少ないため、一括共同購入することで配送の負担を減らし、各マンションでも荷物の受け入れを一括で行うことができる。
しかし团购は最低購入数が大体50セットからとなっており、棟がたくさんあるマンションは世帯人数が多く、一括共同購入が成立しやすいが、居住者が少ないアパートの住人は商品の注文が最低購入数に達しない、各団地内でもグループの統制が取れていないなどの理由で团购が立ち上がることもないなど、自助の差が大きく出ている。
社会や消費者のデジタル化が進み、いつでもお金さえ出せば好きなものを好きなだけ食べたり買ったりすることが可能であった上海。今回のロックダウンでは自動配送システムや、コロナ陽性者追跡システムなど高度なデジタル化による対応が行われるかと思ったが、実際は町内会的な半自助組織の居委会とボランティアが臨機応変に対応している。
今日発布された内容が明日には変わっていることも少なくなく、事前連絡なく突如早朝7時からPCR検査が開始されるや突如中止になることもある。さらにロックダウンが長期化し、現場の指揮系統が混乱しているところも見受けられ、居委会も住民も疲労が困憊してきている様子が見受けられる。一刻も早く事態が収まることを願うばかりである。
balconia Shanghai Ltd.
日系ブランドコンサルとして、上海に拠点を構え、ブランド戦略立案とクリエイティブ制作を提供する。多数のリサーチ案件を通じて消費者、マーケット動向を注意深く観察し、中国市場に合わせたブランドカルチャライズ®を数多く手掛ける。上海、東京、香港に拠点あり。
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提供元・DCSオンライン
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