毎年この時期になると、沖縄各地ではサンゴの一斉産卵が見られるチャンス到来! 今年もそろそろかなと思っていた矢先、自然写真家・関戸紀倫氏からオーシャナ編集部に「サンゴの産卵、撮影していますよ!」と連絡が入った。昨年も石垣島からサンゴの産卵のレポートを届けてくれた関戸氏。今年はなんと水中写真家の上出俊作氏も撮影に来ていると教えてくれた。「これはお話を伺わないと!」ということで、石垣島で撮影中のお二人にzoomで取材を行った。

【動画あり】関戸紀倫氏、上出俊作氏が石垣島北部でサンゴの一斉産卵を激写!
(画像=元気なテーブルサンゴやエダサンゴの群生から放たれた大量のバンドルが、宇宙空間を生み出していた(撮影/関戸紀倫)、『オーシャナ』より引用)

初めて本格的に一斉産卵を撮影して「自分でも驚くほど感動した」と上出氏

沖縄・石垣島北部で撮影中の関戸紀倫氏と上出俊作氏に話を伺ったのは、5月14日。ちょうどその前日、伊原間沖約300mの海中で大規模なサンゴの一斉産卵を撮影したばかりだった。

5月13日午後9時50分ごろ、水深約5mの海底に広がるテーブルサンゴやエダサンゴなどから、直径約1mmのピンク色の卵が一斉に放出された。産卵は約40分間続き、次々に放出される小さな卵は夜の海中を浮遊していたという。

関戸氏、上出氏はどのようにこの最高の瞬間を撮影したのだろうか?

【動画あり】関戸紀倫氏、上出俊作氏が石垣島北部でサンゴの一斉産卵を激写!
(画像=サンゴが大きく美しかったので、全体の雰囲気を生かして撮影した(撮影/上出俊作)、『オーシャナ』より引用)

オーシャナ編集部(以下、――) お忙しいところ、ありがとうございます。今回、紀倫さんと上出さんはたまたまスケジュールが合ってみたいな感じで、ご一緒にいらっしゃるのですか?

関戸紀倫氏(以下、関戸氏) そうです。たまたまです。いつもお世話になっている「イエローサブマリンダイブスタジオ」の峰さんからこの日あたりがいいと聞いて撮影日程を決めていたんですが、石垣島へ行ってみたら上出さんがいて(笑)。じゃ楽しみですね、という話になりました。

――お忙しいお二人が同じ場所にいられること自体、珍しいことだと思います。さらに今回は撮影も一緒にされているということで、めったにないことですよね。しかし同じ場面でほかの写真家の方が撮影されているという状況は、撮りにくさなどないのかな?なんて、余計なことを考えてしまうんですが…。

上出俊作氏(以下、上出氏) 僕自身はサンゴの産卵をちょっとは撮影したことがあるんですが、本格的に撮影するのは初めてで。何年もサンゴの産卵の撮影をしてきている先輩の紀倫さんがいたので、いろいろ教えてもらえてよかったです(笑)。

【動画あり】関戸紀倫氏、上出俊作氏が石垣島北部でサンゴの一斉産卵を激写!
(画像=関戸紀倫氏(左)と上出俊作氏(右)、『オーシャナ』より引用)

――一昨日、昨日と撮影されたそうですが、いかがでしたか? バッチリ撮影できましたか⁉

上出氏 撮れてはいますよ(笑)。初日は小規模な産卵でしたが、昨日はいわゆる一斉産卵が撮れました。本当にすごかったです! 一斉産卵を見た方から「感動した」とか「すごかった!」いう話を以前から聞いたことはあったんですが、そうはいってもまあまあ…みたいなふうに思っていて。でも今回生まれそうな卵を見たとき、その量がすごくてちょっとびっくりしてしまいまして。

そこからテンションが上がって、もう童心に帰るような感じで…。最後にサンゴの卵に包まれたときは、本当に涙が出そうになっちゃいました。自分でこんなに感動したことに驚いたくらいです。

――そうなんですね。そんなに感動できるって、すごい体験ですよね。

上出氏 紀倫さんも最初に産卵を見たとき、涙が出たっておっしゃってたんですよね。紀倫さんは心がきれいなんだろなと思ってて(笑)。 僕は涙は出ないだろうなって思っていたんですけどね。ちょっと出そうになりました。

二人の写真家、それぞれが狙った最高のサンゴの一斉産卵のシーンとは

――紀倫さんはここ数年、毎年のように来られているそうですが、これはサンゴの産卵がライフワークになっているのでしょうか?

関戸氏 そうですね。たとえば去年はワイドのこういう写真が撮れた。じゃ今年はこんな映像を撮ってみようとか、撮り方を変えてみようなどと考えていたら、もう毎年行きたいなって思いますね。

毎回そのシチュエーションも一緒じゃないというか、昨日撮影した場所は僕が今まで見た中で一番浅くて、水深1.5mとか2mぐらいの本当に水面が見えるぐらいのところでした。
またその前の日はちょうどいい感じの水深5mから10mぐらいの場所で。毎回見られる場所とタイミングが違うので、やっぱり何度来ても飽きないですね。

撮影した後には反省点があって、次はこうすればもっといいふうに撮れるのかなって考えたりしています。毎年スキルを上げていって、撮影方法がどんどん理想にかなっていくのかなと思います。

【動画あり】関戸紀倫氏、上出俊作氏が石垣島北部でサンゴの一斉産卵を激写!
(画像=今まで経験したことのない水面が見える水深2mほどのエリアで撮影したサンゴの一斉産卵は、とても感動的だった(撮影/関戸紀倫)、『オーシャナ』より引用)

――紀倫さんはムービー(動画)とスチール(静止画)の両方をワイドで、上出さんはスチールでマクロとワイド両方の撮影をされるそうですね。サンゴの一斉産卵は、ワイド写真のイメージが強いのですが、マクロの視点でこんなふうに撮ったらおもしろいんじゃないかなど、何かアイデアをお持ちですか?

上出氏 マクロでバンドル(卵)が出る瞬間を撮りたいというイメージがありました。撮れてはいるんですが、反省点はありますね…。ただ何とか人様にお見せできるようなものは撮れたと思います。

【動画あり】関戸紀倫氏、上出俊作氏が石垣島北部でサンゴの一斉産卵を激写!
(画像=クローズアップレンズで、バンドルが大海に出ようとしているところを狙って撮影(撮影/上出俊作)、『オーシャナ』より引用)

――すごいですね! こんな写真は、今まで見たことがありません!!

上出氏 僕の場合は、記録として伝えるといったジャーナリスティックな視点はあまりないので、アート作品としてどう仕上げていくのかといった視点で撮っています。夜に撮った写真を、夜っぽくするのか?夜っぽくしないのか?みたいなこともそうで。「これは夜なの?いつなの?」みたいな、わかりやすさをなくした表現がおもしろいのかなと思って、昨日は撮影していました。

――同じサンゴの産卵でも、撮影する写真家によって表現する世界が違うというのはとても興味深いです。お二人とも素晴らしい作品を見せていただき、ありがとうございました。

こちらで関戸紀倫氏撮影のサンゴの一斉産卵シーンの動画が楽しめるので、要チェック!

いろいろな海中シーンを撮影してきた水中写真家でも「涙が出そうになった」というほど感動的なサンゴの一斉産卵。沖縄では例年、8月頃まで産卵シーズンが続くので、ぜひ感動を実際に味わっていただきたい。

撮影協力 イエローサブマリンダイブスタジオ