先日アゴラで掲載された森田氏の記事は、衝撃的でした。広島県で登録された重症者の約7割が軽症・中等症だったというのです。重症者とは、「重症者の定義を満たした人」を指すのであって、 「重症病床に入院した人」を指すわけではないことは明白です。厚労省は、各都道府県に適正な重症者数を公表するようにと、直ちに通達をだすべきです。

ところで、今回の発見の契機となった感染研のレポートには、もう一つの衝撃的事実が報告されていました。

入院時に重症が疑われた高齢者のうち55%の人は、人工呼吸器管理などの積極的治療を自らの希望で受けなかった。

積極的治療を受けていれば救命される可能性があったのに、その治療を受けなかったのです。「積極的治療」という用語は、「人工呼吸器管理やICU管理を伴う治療」という意味で使用しています。今回の分析は、重症登録例27例、死亡登録例42例、合計69例で行われました。調査フローの図を以下に示します。

新型コロナ治療で「積極的治療」を希望しない日本の高齢者の現実
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

このフロー図より、入院時に重症が疑われた人のうちカルテ調査できた症例は、 重症の9例(年齢中央値:70歳)と、病院死亡の11例(年齢中央値:85歳)で、合計20例です。病院死亡の残りの22例は調査ができていないので除外します。まとめると、次のようになります。

20人の高齢者が、重症を疑われて入院した。
そのうち11人(55%)は人工呼吸器管理などの積極的治療を受けずに死亡した。
その11人のうち全員が、本人または家族の希望により、積極的治療を受けなかった。

病院死亡した33人のうち11人は、積極的治療を受けておらず、重症病床には入院していなかった、 あるいは短期間の入院であったと考えられ、そのため重症例には登録されていなかったと推測されます。これは、重症例の登録がなく死亡例のみが登録される場合があることの理由の一つとなります。 残りの22人は、カルテ調査ができていないため、積極的治療の有無は不明です。

もし、病院死亡した33人が積極的治療を受けていたとしたら、 そのうち何人が救命された可能性があるかについては分析されていません。仮に半分の17人が救命されていたとすれば、重症登録者数は大幅に増加します。これは、重症化予防効果を計算する時には、重症者数のみでなく死亡者数も考慮した方がよいことを示しています。救命しても寝たきりになってしまう場合が多い可能性もありますが、今回はその問題は深掘りしません。

病院死亡した33人のうち11人は、本人または家族の希望により、積極的治療を受けませんでした。残りの22人は、カルテ調査ができなかったため不明ということでした。感染研には、追加調査で残りの22人についても、ぜひ調べてほしいと思います。重症高齢者の何%が積極的治療を希望しなかったのかというデータは、現在の日本においての新型コロナの治療の実態を知る上で重要です。

高齢者の人工呼吸器管理の是非についてはマスコミでも取り上げられています。基本は、本人と家族の意向に沿って治療をするということのようです。ただし、神戸新聞によると、高齢を理由として暗に人工呼吸器管理の断念を迫られる場合もあるようです。また、断念した場合は、重症ではなく中等症として県に報告している病院も存在していると報道しています。真の重症者数は、全くもってカオスです。

ここで、重症高齢者の積極的治療の是非を問うつもりはありません。ただし、今の日本において重症が疑われた高齢者のうち積極的治療を受けない人は何%なのか、その場合に本人・家族の意向はどの程度反映されているかについては、国民が知っておくべき情報です。この件に関して厚労省は、広島県以外の県においても更に調査をするべきと、私は思います。

これまでは感染研に苦言を呈することが多かった私ですが、今回のレポートは高く評価したいと思います。

文・鈴村 泰/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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