「リテール・イネーブラー」をめざす!
フィジー・シモ氏は「Instacartのプラットフォーム事業は損益分岐点に達するが、利益率の高い「リテイルメディア」事業は、次の時代に向けて会社を前進させる特別な利益を生む」と述べている。
このように、創業期から主軸として行っていた一般消費者向けの買い物代行サービスアプリの提供であるBtoCのビジネスモデルから、今後は小売業向けのリテールイネーブルメント・プラットフォーム、つまり小売業を広告事業によって成功へと導くBtoBのビジネスモデルへと大きく舵を切ることを明言している。
IPOを急がない理由として「私にとって重要なのは上場する会社が、私が打ち出したビジョンを反映する会社であることを確認するため」という言葉からもわかるように、リテール業界のイネーブラー(後援者)としての新しいビジネスモデルによって、市場や投資家に認められ、上場を果たしたいという力強いビジョンが語られていた。
「リテイルメディア」が米国で注目されている理由
米国ではアマゾン(Amazon)のリテイルメディア事業における成功を皮切りに2019年頃からウォルマート、ベストバイ(Best Buy)、クローガー(Kroger)などが追従する動きを見せている。これした動きは、小売業のビジネス領域が広がり、競争が激化しているという背景がある。
米国でのリテイルメディア事業におけるシェアでは、Amazonが77%を占めており、次いでウォルマートが5.4%となっている。ウォルマートについて具体的に述べるならば、自社内のメディアネットワークである「Walmart Connect(ウォルマート・コネクト)」にてコンテンツやメディアを内製し、広告プラットフォームを運用している。ウォルマートのリテイルメディア事業における21年の広告収入は21億ドル、日本円で約2680億円(1ドル127円で換算)であった。
このように、米小売業はモノを売るだけではなく、リテイルメディアや金融商品へとビジネスを多角化している。リテイルメディアと言えば「Eコマース内の広告」というイメージがあるが、店舗のデジタル・トランスフォーメーション(DX)とも連動・融合可能という点で、足元ではより注目を集めるようになっている。
顧客のファーストデータを取得し、パーソナライゼーションを進めるうえでも、小売業が自らエンドユーザーとつながり、店舗の会員基盤を活用することや、スマホアプリ・ECサイト等と連携することは重要だ。
テレビ以外の広告宣伝費におけるリテイルメディアの割合を増やすことが米国では必要不可欠となっている。単刀直入に言うならば、リテイルメディア事業への参入は、小売業における生き残りの要件となっていると言っていい。
日本国内においても、サードパーティCookieが23年に廃止されることからも、小売業にとって、リテイルメディアは真剣に取り組まねばならない喫緊の課題となるだろう。
提供元・DCSオンライン
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